◆ 実際の伝送においては、伝送路における波形歪みがあります。この波形歪みは、伝送路の周波数特性に基づくものと、外来ノイズに起因するものとがあります。波形歪みが大きいと、伝送誤りを引き起こします。
この伝送誤りは、強烈な外来ノイズを受けたときは別ですが、通常は、同期に関係しています。
受信側では、歪んだ信号を受けます(図.23)。
◆ 受信側では、まず、この信号を、一定のスレッショルドレベルでサンプリングして、矩形波に整形します。このとき、波形歪みに起因して、立ち上がり/立下りのタイミングが、図のように、ばらつきます。このばらつきのことを、ジッタ といいます。
ジッタが大きいと伝送誤りが発生します(図.24)
◆ (a) は、ジッタの無い理想的な状態です。
(b) は、ジッタのあるデータを、理想的なクロックでサンプリングしています。しかし、伝送誤りは発生していません。
(c)も、ジッタのあるデータを、理想的なクロックでサンプリングしています。この場合は、ジッタが大きいために、伝送誤りになっています。
(d) 送信されてきたクロックを使用すれば、クロックにもジッタが生じるはずです。したがって、実際には、データ、クロック共にジッタがあります。(c) よりも、伝送誤りが発生しやすい状態です。
◆ 伝送誤りの、もう一つの原因に、同期外れ があります。同期外れは、たとえば、図.25 の原因で発生します。
◆ この同期外れの現象は、ビットの同期にとっては、一時的な現象です。しかし、フレーム同期にとっては、連続する誤りになります。ビットのカウントが狂ってしまうからです。次のキャラクタ同期やフレーム同期までの間は、このずれは修正されずに続きます。
伝送誤りは、その誤りの発生のしかたによって、ランダム誤りと、バースト誤りの、2 種類があります。
◆ ランダム誤り は、ランダムな現象です。外来のノイズは、伝送システムとは独立です。したがって、外来ノイズによって発生した伝送誤りは、ランダムの性質を持ちます。通常の伝送誤りは、ランダム誤りです。
これに対して、バースト誤り とは、あるビットが誤ると、それ以降複数ビットが、高い確率で誤る現象です。このバースト誤りの発生原因は、幾つかありますが、上記の同期外れも、その一つの要因です。
◆ 同期外れは、この他にも、ベーシック手順の同期式において、同期キャラクタに伝送誤りが発生したときにも起こります(図.26 )。
◆ このプロトコルでは、ビット同期が取られている状態で、同期キャラクタの検出を行います。図で、ハントモードとは、この状態のことです。
フレーム同期の場合も、同様のことが起こります。非同期式における同期外れを図.27 に示します。
◆ 非同期式の詳細な説明は行っていませんが、大体の見当は付くと思います。
◆ 伝送において、同期は非常に重要です。同期の性能を高くすることが、伝送の品質を高くします。同期の品質を高くすることは、波形歪みを抑えることに帰着します。しかし、これとは別に、同期の性能を高くする技術が存在します。PLL と呼ばれるものです。
PLL は、Phase Lock Loop の略で、位相に関する自動制御です(図.28)。
◆ 自動制御の通常の目的は、、出力信号(制御変数)の値を、入力信号(目標値)の変化に追随させることです。PLL も、このような用途に使用することも多いのです。しかし、PLL を同期に利用する場合は、別な使い方をします。
入力信号は、ジッタがある、ばらついた値です。これに対して、取り出したい出力信号は、入力信号(位相)の平均値です。この平均値は、ばらつきの無い、きれいな信号であって欲しいわけです。
◆ この効果を出すために、フィルタが入っています。このフィルタによって、入力の位相に同期した、ジッタの無いクロックを作り出すことができます(図.29)。
◆ フィルタは、ジッタを十分に取り除くことができるように、時定数を大きくします。このため、制御応答がおそくなり、定常の制御状態になるまでの時間が掛かります。この現象を引き込み と呼び、引き込みに要する時間を引き込み時間 と言います。
◆ PLL は、位相比較のやり方によって、動作が大きく異なります。まず、入力信号が、正弦波で動作するものと、方形波で動作するものとがあります。同期の場合は、方形波用を、使用します。以降の解説は、方形波用です。
同期における、PLL 適用のやり方に 2 通りあります(図.30)。
◆ 最も簡単な位相比較器は、エクスクルーシブオアです(図.31)。
◆ この位相比較器は、図に示したように位相比較を行います。したがって、入力信号は、50% デューティのきれいなクロックであることが必要です。
図.32に示すように、パルスのエッジで位相を比較する方式もあります。この方式では、クロックのデューティーは 50% に限定されません。
◆ D フリップフロップを使用する位相比較器もあります(図.33)。
◆ この位相比較器は、図に示したように、入力信号が歯抜けであっても、正常に動作します。この性質を利用して、図.34 の例のように、クロック情報を含むデータ信号から、直接クロックを抽出することができます。一般の位相比較器でも、ときたま発生する歯抜けなら動作しましが、このように激しい歯抜けでは、正常に動作しません。
◆ ただし、この位相比較器の出力はオン/オフ信号です。通常の VCO(電圧制御発振器)は、連続信号で動作します。オン/オフ信号で動作する VCO が必要です(図.36 参照)。
◆ PLL を使用することによって、ジッタのあるクロックから、ジッタの無い安定したクロックを抽出することができます。ジッタがあるクロックを直接使用する場合に比べて、より大きなジッタがあるシステムで、同期を正しく取ることができます。また、PLL の方式によっては、図.25 のように、伝送誤りによってクロックが変形しても、正常に動作します。
◆ PLL は、引き込みに時間が掛かるという欠点があります。ジッタを十分に抑制するフィルタが挿入されているからです。伝送開始直後から、正常に動作をして欲しい用途には、利用できません。たとえば非同期式では、最初のスタートビットを検出しなければなりません。PLL を適用することはできません。
◆ 以上、説明してきた PLL は、アナログ回路です。最近は、すべてディジタル化が進んでいます。PLL もディジタル PLL が用いられています。ただし、ディジタル PLL は、一般に、使用周波数の 16 倍(少なくとも 8 倍)のクロックを必要とします。
◆ ディジタル PLL は、たとえば、16 倍のクロックを使用しているなら、4 ビットのカウンタです。そして、位相比較の結果、カウンタの位相が進んでいるか、遅れているかによって、カウンタのカウント値を、遅らせ、または進めます(図.35)。
◆ ディジタル PLL では、最低桁の 1 ビットの大きさのジッタは、避けることができません。このジッタを抑えるためには、桁数が大きいカウンタを使用する必要があります。
ディジタルの処理ですから、ロジックを自由に組むことができます。したがって、色々な 機能を持った PLL を作ることができます。逆にいえば、ディジタル PLL は、単にディジタル PLL と言っただけでは、その機能は分かりません。
◆ ディジタル PLL では、たとえば、引き込み時と、引き込み後の同期状態のときとで、ロジックッを変えることによって、引き込みが速く、かつ引き込み後の安定性の高い PLL を作ることができます。
ディジタル PLL は、通常、システム LSI に組み込まれています。
◆ 水晶発振形 PLL は、水晶発振器を使用した 特徴のある PLL です。水晶発振器 は、発振素子に水晶を使用した、高精度、高安定の発振器です。通常は、周波数を変化させることが、困難です。しかし、僅か(10-4程度)ですが、発振周波数を変化させることが可能なタイプがあります。
◆ 源発振器に、周波数安定度がこれより高い水晶を使用し、PLL に、この周波数可変形水晶を使用すれば、高安定高精度の PLL を作ることができます。データ伝送では、伝送速度が一定です。送信側のクロックに、水晶発振器を使用することが多いのです。したがって、受信側に、水晶発振形 PLL を使用することができます。
水晶発振形 PLL は、引き込み時間は著しく長いですが、その代わり、一度引き込んだら、かなりのことがあっても、びくともしない PLL です。
◆ D フリップフロップを位相比較器に使用し、上記水晶を使用した、水晶発振形 PLL の例を、図.36 に示します。
◆ 図で、コンデンサ C3 をオンオフする代わりに、可変容量ダイオードを使用すれば、発振周波数を連続的に変化させることができます。可変容量ダイオード は、ダイオードに掛ける逆電圧の大きさを変えることによって、端子間の容量を変えることができるダイオードです(図.37)。