データ伝送web講座

7. 多重伝送とネットワーク伝送

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7.1. 多重伝送

7.1.(1) 概   要

◆ 多重化は、2.3.(2-A) に示したように、空間分割多重化、周波数分割多重化、時分割多重化の 3 種類があります。しかし、空間分割多重化は、単に線を束ねるだけですから、通常多重伝送とは言いません。
周波数分割多重化は、アナログの技術です。有線でも多く使用されていますが、電波による無線では、唯一の手段です。たたし、周波数多重化された、各々の 1 つのチャンネルを、時分割多重化によって、さらに多重化することは、できます。
◆ 時分割多重化は、ディジタルの技術です。最近は、全ての分野で、ディジタル化が進んでいます。この意味で、時分割多重化が多くなっています。時分割多重伝送の概念は、既に示しました。ここでは、さらに具体的に示します。
多重伝送 と呼ばれているものは、大きく 2 つに分けられます。1 つは、ブロードの幹線系、中継系に用いられているものです。これは元々は、電話の中継網として発展してきた体系です。
◆ 電話網は、中継系、幹線系はディジタル化されていますISDN では、末端部分もディジタル化しています。したがって、時分割多重化を使用しています。
もう 1 つは、単純な簡易ネットワーク伝送装置のことで、多重伝送装置 と呼んでいるものです。これも、ほとんどが、時分割多重化です。

7.1.(2) 幹線系/中継系の多重伝送

◆ 電話などの回線交換方式の中継系/幹線系では、多重伝送が使われています。音声信号はアナログですが、その交換や伝送は、ディジタル化されています(2.4.(1-B)2.4.(1-C))。したがって、多重伝送になっています。
既に述べたように、電話の音声信号は、64kビット/秒です。中継回線では、これを 24 チャンネルまとめて、1.544 Mビット/秒にしています。24 × 64 = 1,536 kビット/秒でないのは、同期信号が加わるからです。この、1.544 M/秒の中継回線を、1 次群 と言います。
◆ ISDN は、それ自体が既に 電話を2 チャンネル多重化していますが、これも、8 チャンネル多重化して 1 次群にまとめています。なお、ISDN は、1 チャンネルが 192 kビット/秒と、長くなっています。実際の通話のほかに、制御用の情報を含んでいるからです。
この 1 次群は、さらに 4 チャンネル多重化されて、2 次群 、これを 5 チャンネル束ねて、3 次群 、さらに 3 倍して 4 次群 、それを 4 チャンネルで 5 次群 となっています。したがって、5 次群では、電話 5,760 本分になります。この中継網の構成を、ディジタル ハイアラーキ といいます(図.1)。

[図.1] ディジタル ハイアラーキ

ディジタル ハイアラーキ

◆ 階層の数が多いように感じられますが、歴史的な過程から、多分このようになったのでしょう。

7.1.(3) 多重伝送の装置

7.1.(3-A) 概   要

◆ 多重化の対象は、データとは限りません(図.2)。

[図.2] 多重化の方式

多重化の方式(a)〜(c) 多重化の方式(d)〜(e) 多重化の方式(f)〜(g)

◆ これらの中で、(a) と (c) は、データが 2 チャンネルで、双方向です。これは全 2 重伝送であり、多重化とは呼びません。データが、同一方向に 2 チャンネル以上あるものを、多重伝送と呼んでいます。
多重伝送装置 は、接点のオンオフ情報などを、多重化して伝送する、ローカルの伝送装置です。これとは別に、ブロードで、計測情報を送る装置があり、テレメータ と呼ばれています。

7.1.(3-B) 多重伝送装置

◆ 多重伝送装置を使用する主な目的は、配線費の節約です。このことから、省配線システムとも呼ばれています。通常サイクリック伝送です。インターフェースの取りかによって、2 種類に分けられます(図.3)

[図.3] 多重伝送装置

多重伝送装置

◆ (a) は、典型的な、多重伝送です。(b) は、工業用パソコン、シーケンサ、マイコン応用製品などとインターフェースを取るタイプです。データの方向性は、単方向のものと、双方向のものとがあります。
多重伝送装置は、伝送対象の、時間的変化情報を伝えます(図.4)。

[図.4] 時間的な変化情報を送る

ディジタルデータ アナログデータ

◆ 図は、多重化されたデータの、ある 1 点を示しています。サンプリングしていますから、伝送されたデータ(赤線)は、伝送対象が実際に変化したとき(黒線)よりも、遅れます。この遅れが支障にならない程度に、サンプリング周期(= サクリック周期) τ を、速くする必要があります。
アナログデータの場合には、サンプリング周波数が、信号の最高周波数の、少なくとも 2 倍以上になるように選びます(サンプリング定理)。

7.1.(3-C) テレメータ

◆ テレメータの呼び名は、一般の多重伝送装置や、次に述べるネットワーク多重伝送装置と同様な意味にも使われています。しかし、通常は、ブロードに使用するものを、テレメータ と呼んでいます。
テレメータは、広域に点在する拠点の計測データ、たとえば気象観測データ、環境データ等を、リアルタイムに、センター拠点に送るのに使用されています。
◆ これらは、基本的には、サイクリック伝送ですが、サイクリック周期が、たとえば 10 分といった値ですから、各時点のデータを、それぞれ独立した伝送として送ります。
専用回線や、これに準じる回線を利用できる場合は、これらを利用します。そうでないときは、公衆回線を使用します。
◆ 伝送フォーマットの例を、図.5 に示します。

[図.5] 伝送フォーマットの例

伝送フォーマットの例


7.1.(4) ネットワーク多重伝送装置

7.1.(4-A) 概   要

◆ 先に述べたように、多重伝送装置を利用する目的は、配線費の節約にあります。伝送の対象となる点が、ほぼ、まとまっている場合には、単純な多重伝送装置で、目的を達成できますが、ばらばらに散在しているときには、効果がありません。このようなときに、利用するのがネットワーク多重伝送装置です(図.6)。

[図.6] ネットワーク多重伝送装置

ネットワーク多重伝送装置

◆ 複数の子ノードと親ノードとの間で、サイクリック伝送を行います。子ノードがどのように分布しているかによっては、バスではなくトリー構成にします。バスの代わりに、いもづる式を使用することもあります。光ファイバ伝送では、バスは高価になりますから、いもづる式などを使用します(図.7)。

[図.7] いもづる式伝送

いもづる式伝送

◆ いもづる式 は、日本における慣用名で、世界に通用する名称は、デイジーチェーン です。
図に示した方式は、バスと同等の機能を持つ方式です。図で右から左に向かう、いもづるで、各ノードからのデータを(オアを取って)取り込みます。親は、このデータを取り込んで利用します。親から送るデータは、左から右に向かう、いもづるで各ノードに配ります。
◆ バス方式のネットワーク伝送では、各ノードが勝手に送信を行うと、バス上でデータが衝突して壊れてしまいます。したがって、コンピュータバスと同様に、親がバスを制御します。図.6 (b) のように、親がコンピュータに接続されている場合は、親ではなくコンピュータのソフトウェアによって、サイクリックの制御を行う方式も可能です。

7.1.(4-B) 1 ビット単位の伝送

◆ 多重伝送装置やネットワーク多重伝送装置は、配線費の節約が目的です。したがって、装置が高価についたのでは意味がありません。ノードを構成するためには、最低でもある程度のコストが掛かります。したがって、ノード当たりのデータ点数がある程度以上ないと、経済性がありません。通常は、最低でも 8 点程度です。
◆ しかし、1 ビット/ノードで、かつ高機能の多重伝送装置も可能です。その 1 例を示します(図.8)。

[図.8] M-WAY モデル S 多重伝送装置

M-WAY モデル S 多重伝送装置

◆ 図で、S は制御器で、制御器の制御の下にサイクリック伝送を行います。(B) の場合には、制御器は、パソコンなどのインターフェース ボードの形で、パソコンなどに内蔵されます。
下記の機能を持たせることができ、しかも非常に安価です。特定のシステム専用とし、そのシステムで使用するセンサや出力装置などに、伝送装置を内蔵させれば、とくに安価になります。
◆ (1) 1 対の伝送線で、伝送路と、伝送装置 T への電源供給を兼ねます。センサなどの電源容量が小さければ、センサなどへの電源も供給することができます。
(2) 1 点ごとの任意間伝送が可能です。たとえば、図 (A) で、同じ番号同士での伝送を行います。
(3) ノイズに強く、工場現場での使用に耐えます。
(4) ディジタル データだけでなく、アナログ データを、A/D(アナログ/ディジタル)変換することなく、アナログ信号を直接伝送することができます。この場合は、センターに 1 台 A/D 変換器を置いて、ここで A/D 変換してコンピュータなどに送り込みます。同一伝送路上に、ディジタルデータとアナログデータとを混在させることができます。



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