データ伝送web講座

4. 伝送用電気ケーブル

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4.1. 伝送ケーブルの種類とその特性

4.1.(1) 電気ケーブルにおける伝送誤り

4.1.(1-A) 伝送誤りの原因

◆ データ伝送においては、伝送誤りを完全に無くすことはできません。このため、伝送誤り制御を行い、伝送誤りが発生しても、伝送誤りを訂正して、ユーザーに、正しいデータを引き渡すようにします。しかし、誤ったものを訂正するよりも、伝送誤りの発生自体を抑えることの方が、より本質的な対策です。
◆ 伝送誤り発生の原因は、伝送波形が歪むことにあります(図.1)。

[図.1] 波形が歪む

伝送波形が歪む

◆ 図の下のように歪んでしまったら、どうしようもありません。これは誇張ですが、波形の歪みが伝送誤りの原因になることは、了解できると思います。
逆にいえば、波形歪みが小さいように伝送することが、伝送誤りを減らす対策です。

4.1.(1-B) 波形ひずみの原因

◆ では、波形が歪む原因は、どこのあるのでしょうか。伝送路において、波形が歪む原因は次の 3 つです。
 (a) 外来ノイズ
◆ これは、当然考えられる要因です。
 (b) 伝送路の周波数特性による歪
◆ 伝送路自体が歪みの原因になります。伝送路には抵抗があり、信号が伝わるには電流が流れますから、電圧降下があります。抵抗分だけであれば、信号は減衰しますが、波形歪みは発生しません。しかし伝送路は、抵抗成分だけでなく、インダクタンス/キャパシタンスの成分を持っています。したがって、伝送路は周波数特性を持ちます。
◆ 信号が単一周波数であれば別ですが、一般には信号は、周波数帯域を持っています。周波数によって減衰量が異なりますから、波形が歪みます。
さて、方形波では、その方形波の、周波数を基本周波数といいますが、角の部分は、基本周波数の整数倍の高い周波数成分を持っています。伝送路の周波数特性は、図.2 に示すように、高周波で減衰する、ローパスフィルタ形の特性をもっています。

[図.2] 伝送路の周波数特性

伝送路の周波数特性

◆ 伝送路では、信号は一定の速度で進みます。したがって、信号の遅れ時間は、周波数に依存しない一定値です。このことは、信号の位相遅れの形で表現すれば、信号の周波数に比例することになりです。この図は、ボード線図ですから、周波数軸は対数です。したがって、図に示すような形になります。

[注] 信号の周波数特性、ボード線図などについては、自動制御講座 3.1.を参照してください。

◆ 上記の結果として、伝送路で減衰した信号波形は、図.3 のように、角が取れて丸くなります。

[図.3] 伝送路による波形歪みの例

伝送路による波形歪みの例

◆ 図の信号は、パルス幅一定(基本周波数一定)です。したがって、正弦波形に近づきますが、きれいな波形です。しかし一般の伝送波形は、パルス幅がバラツキます。この場合の現象を(図.4に示します。

[図.4] 信号周波数と波形歪み

周波数が低いとき 周波数が高いとき

◆ 図の波形は、低い周波数の方形波 1 サイクルと、高い周波数の 4 サイクルの繰り返し波形です。各々上段が伝送路への入力波形、下段が伝送を通過した出力波形です。
上の図 (a) は、信号の周波数が低く(図.2 の[A]の周波数)、伝送路の周波数特性が緩やかなときの波形です。下の図 (b) は、信号の周波数が高く(図.2 の[B]の周波数)、周波数特性が激しいときの波形です。すなわち (a) と (b) とは、横軸のスケールが異なります。
◆ (a) においては、信号周波数が低い(パルス幅が広い)場所と、信号周波数が高い(パルス幅が狭い)場所とで、信号の振幅は、ほとんど変わりません。したがって、多分伝送誤りも発生しないでしょう。
◆ これに対して (b) は、信号周波数が低いとき(パルス幅が広いところ)と、信号周波数が高いとき(パルス幅が狭いところ)とで、信号の減衰量が大幅に異なります。周波数が高いところは、このため、信号が大きく歪んでおり、信号の振幅が小さくなっています。図(b) の矢印の部分では、信号がスレッショルド電圧に達しないで、伝送誤りになると考えられます。

◆ 以上の例からも分かるように、信号は、外来ノイズだけでなく、伝送路の特性等に起因して、自分自身で歪んでしまいます。そして、これが伝送誤りの原因になります。
したがって、伝送路の特性を知り、適切に伝送路を選択することが必要です。

4.1.(2) 伝送用ケーブルの概要

4.1.(2-A) 要求される特性

◆ どんなケーブルを使用しても、信号は伝わります。しかし、とくに長距離や高速の伝送においては、信号波形が歪んで伝送誤りが発生しないように、適切なケーブルを使用することが重要です。
伝送に適したケーブルとは、
 (a) 特性が優れていること
◆ 特性が優れているケーブルを使用することは当然ですが、さらに、その特性が公表され、保証されていることが望まれます。一般に、伝送用ケーブルとして規格化されているものは、この条件を満たします。具体的には、通信ケーブル、LAN 用ケーブル、同軸ケーブルなどがあります。
 (b) ノイズを受け難いこと
◆ 上記の 4.1.では、伝送路の周波数特性による波形歪みを強調しましたが、当然、外来ノイズによる歪もあります。外来ノイズをを受け難いことも重要です。
 (c) 価格と施工性
◆ 一般に優れたケーブルほど価格が高い傾向にあります。とくに、ノイズ対策用のシールドの有無は価格に大きく影響します。価格との兼ね合いを考えなければなりません。
また、施工性も考慮する必要があります。施工上の不備から、所定の性能が得られない場合があります。

4.1.(2-B) ケーブルの分類

◆ 伝送用ケーブルは、大きく 2つのグループに分かれます。
 (a) ツイストペア ケーブル
◆ 平衡であり、耐ノイズ性が高く、優れたケーブルです。ただし、信号の減衰量が大きいので、高周波には適しません。通信ケーブル、LAN 用ケーブルは、これに属します。
 (b) 同軸ケーブル
◆ 信号の減衰が小さいので、高周波に適します。ただし、ツイストペア ケーブルと比べて、高価であり、施工性に劣ります。

[コラム.4.1] 短距離用伝送ケーブル

★ 距離が短ければ、ケーブルの特性は、あまり問題になりません。別の面で特徴がある、各種のケーブルを使用することができます。
 (1) コンピュータ用ケーブル
★ 通称であり、特定のものを指すのではありません。一般に多対ツイストペアケーブルです。コンピュータインターフェースとして、規格化されているものは、それぞれの専用ケーブルがあります。
 (2) フラットケーブル
★ 3.1. 図.1 に示したケーブルです。主に、機器内部の配線に使用します。
 (3) スダレ形ケーブル
★ フラットケーブルと同様に使用します。フラットケーブルは、便利ですが、コンパクトに丸め難いのが欠点です。下図の構造にして、施工性を高めたものです。

スダレ形ケーブル

 (4) 多対フラット形ツイストペアケーブル
★ ツイストペアケーブルを、フラットケーブのように並べたものです(下図)。

多対フラット形ツイストペアケーブル

 (5) 弱電計装用ケーブル
★ 長距離伝送にも使用されますが、便宜上ここに示しました。多対のケーブルです。ツイストされたものと、ツイスト無しのものとがあります。計装の分野は、従来はアナログの直流信号が多く使用されていました。この場合には、通常ツイスト無しでも使用できます。ただし、ツイスト無しのものは、耐ノイズ性は高くありません。



4.1.(3) 通信ケーブル

4.1.(3-A) 概   要

◆ 通信ケーブル は、元々電話用のケーブルです。この意味では、本来低周波用です。しかし、絶縁体の材質にポリエチレンを使用したものは、かなりの高周波まで使用可能です。ビニール絶縁は、高周波での減衰が大きいので、高周波には使用できません。

[注] ここで絶縁体とは、導体(電線)を被覆して線間相互を絶縁するものを指します。これに対して、ケーブル全体を覆うものをシース といいます。シースの材質は、ケーブルの対候性に影響しますが、ケーブルの電気的特性には,ほとんど影響しません。

ケーブルの構造

◆ 通信ケーブルはその用途によって、いくつかの種類があります。データ伝送用には、市内ケーブル と呼ばれているものが多く使用されています(表.1、2)。

[表.1] 市内ケーブルの代表例

市内ケーブルの代表例

[表.2] 市内ポリエチレン絶縁ケーブルの線径と対数

市内ポリエチレン絶縁ケーブルの線径と対数

◆ データ伝送用には、線径が 0.65〜1.2φが多く使用されます。

4.1.(3-B) 周波数特性

◆ 通信ケーブル(市内ケーブル)の減衰量(周波数特性)を、図.5 に示します。

[図.5] 市内ケーブルの減衰量

市内ケーブルの減衰量

◆ この図は、各種文献を総合して作り上げたものです。ケーブルの減衰量は、通常 dB (デシベル)で表します。
図を見ると、ケーブルの減衰量の周波数特性は、直線的です。ただし、図の縦軸(減衰量 dB/km)は、dB をさらに対数にしてあります。したがって、通常のボード線図の書き方にすれば、図.2 に示したように、高周波で激しい減衰になります。図の縦軸 dB/km から分かるように、減衰量は、ケーブルの長さに比例します。
◆ また、低い周波数範囲(約 100kHz 以下)では、線の傾斜から、減衰量は、周波数の平方根に比例していることが分かります。この関係は、基本的な理論からも導かれる関係です。高い周波数範囲では、傾斜がさらに大きくなっています。これは、基本的な理論に入っていない減衰の要因が加わるためです。

4.1.(3-C) 特性インピーダンス

◆ 特性インピーダンスを図.6 に示します。

[図.6] 市内ケーブルの特性インピーダンス

市内ケーブルの特性インピーダンス

◆ この図も、各種文献を総合して作ったものです。
図から分かるように、特性インピーダンスも周波数特性を持っています。電話用ケーブルの特性インピーダンスは、600Ωと言われています。これは、0.65φのケーブルで、周波数が 1kHz のときの値です。音声周波数帯域では、特性インピーダンスの値は、周波数および線径によって、かなり変化しています。高周波領域では、ほぼ 100Ωで一定しています。
◆ なお、通信ケーブル以外でも、ツイストペアケーブルの高周波における特性インピーダンスは、大体、100〜120Ω程度です。

4.1.(4) LAN 用ケーブル

◆ 通信ケーブルは、絶縁体がポリエチレンであれば、かなり高周波まで使用できます。しかし、元々は電話用(低周波用)のケーブルです。高周波の特性は、規格で保証されてはいません。
LAN 用ケーブル は、米国 EIA の規格で、カテゴリ (cat と略す)によって、いくつかの種類に分けられています。LAN 用には、cat3〜cat5 が使用されます(表.3)。

[表.3] LAN 用ケーブル

カテゴリ 用   途
3 16MHzまでの信号伝送用 10BASE-T
4 20MHzまでの信号伝送用
5 100MHzまでの信号伝送用 100BASE-TX


◆ LAN についての詳細は、後に解説しますが、最も広く使われてるのが、イーサーネットと呼ばれる機種です。イーサーネットは、同軸ケーブルを使用する機種もありますが、ツイストペアケーブルが圧倒的に使われています。伝送速度が 10Mビット/秒の 10BASE-Tと、100Mビット/秒の100SASE-TX とがあります。最近では、価格差があまりありませんので、市販されているのは、ほとんどが cat5 です。
◆ シールド付きの STP とシールド無しの UTP とがあり、UTP が多く使用されています。通常 2 対入りで、ストレート・ケーブルとクロスケーブルの 2 種類があります(図.7)。

[図.7] ストレート形とクロス形

ストレート形とクロス形

◆ コネクタは8 極で、図は 4 対の場合です。通常は 2 対入りです。イーサーネットは、一般に、ハブを介して接続します。この場合には、ストレート・ケーブルを使用します。しかし、1 対 1 で直結するときは、クロス・ケーブルを使用します。
◆ cat5 の周波数特性を図.8 に示します。

[図.8] cat5 の周波数特性

cat5の周波数特性

◆ この図は、伝送系のパソコンによるシミュレーションを行うために作成した、伝送路のモデルです。緑が、cat5 100m、赤が比較のために入れた通信ケーブル CPEV 0.65φ 100m です。cat5 の線径は、約 0.5φですから、低周波領域では、CPEV の方が減衰が小さな値です。しかし高周波では、cat5 の方が優れています。
なお、図には示してありませんが、cat3 の周波数特性は、高周波領域では、CPEV 0.65φ とほとんど同じです。

4.1.(5) 同軸ケーブル

◆ 同軸ケーブル は、ツイストペアケーブルよりも高周波に使用できます。同軸ケーブルは、特性インピーダンスの値によって大別されます。50Ω 系と 75Ω 系とがあります(表.4)。

[表.4] 同軸ケーブルの種類

同軸ケーブルの種類

◆ 表で、上側の C2V が 75Ω 系で、下側が 50Ω 系です。テレビは、50Ω 系です。
ケーブルの信号減衰量は、ケーブルの絶縁体の誘電率が小さいほど低くなります。プラスチック系の誘電率は、ポリエチレンが小さいので、高周波用にはポリエチレンが使用されています。
◆ ところで、誘電率は真空(実用上空気も同じ)が、もっとも低いのです。たとえば、発泡ポリエチレンを使用すれは、絶縁体の実効誘電率を下げることができます。C2V 系の同軸ケーブルで、発泡ポリエチレンを使用した製品があります。また、別の構造で、発泡ポリエチレンと同様な効果をもつ製品があります。
◆ 同軸ケーブルの減衰量を図.9 に示します。図には、C2V 系のほかに、誘電率を低くした、BVF/BE 系ケーブルの減衰量も示してあります。

[図.9] 同軸ケーブルの減衰量

同軸ケーブルの減衰量

◆ 図から分かるように、減衰量の周波数特性の形は、ツイストペアケーブルと同様です。すなわち、周波数特性の形が高周波に適しているのではなく、減衰量の絶対値が低いから、高周波に使用できるのです。
◆ 同軸ケーブルは、不平衡です。芯線と、外側線とは、等しくありませんから、平衡ではありえません。しかし、構造が同軸ですから、平衡に近い特性を持っています。結果として、高周波の信号に対しては、平衡です。しかし、低周波(kHz オーダー以下)に対しては不平衡です。
このため、商用周波数の大きなノーマルモードノイズが載ってきます。トランスは、絶縁が目的で使用されますが、上記の対策としても有効です(ノイズ対策 19.(3-B))。


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