データ伝送web講座

6. 符号化と変調

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6.1. 符号化の概要

6.1.(1) 符号化と変調について

◆ ディジタルデータの基本は、NRZ 符号です。しかし、伝送路に直接送り出す符号としては、あまり適した符号ではありません。高速/長距離の伝送では、伝送に都合の良い性質を持ったパルス符号に変換して、その符号で伝送を行います。
符号の例としては、既に、バイフェイズ符号や、バイポーラ符号を紹介しています。伝送には、この他にも多くの符号が、使われています。また、伝送以外にも、符号化が必要な場合があり、伝送で使用される以外の符号も、用いられています。
◆ 符号化は、ディジタルの技術です。すなわち、パルスを利用します。符号化と同じ目的で、アナログでは、変調が利用されています。変調は、正弦波をベースにしています。歴史的には、ディジタルの符号化よりも、アナログの変調の方が先です。そして、ディジタルの符号化の目的用途は、アナログの変調と同じです。
◆ このことから、ディジタルの符号化のことも、変調と呼ぶ場合があります。たとえば、電話で、音声をディジタル化し、それをバイポーラ符号化したもののことを、PCM (パルス コード変調)と呼んでいます。
しかし、この講座では、混同を避けるために、以降、変調 とは、アナログの変調のことを指し、デイジタルの符号化は、符号化 と呼ぶことにします。

6.1.(2) 符号化の目的

6.1.(2-A) 周波数帯域を狭くする

◆ 伝送路は周波数特性を持っています。このため、信号の周波数帯域が広いと、波形歪みが大きくなります(4.1.(1-B))。周波数特性による波形歪みは、伝送誤りの原因となります。波形ひずみを抑えるためには、周波数帯域は、その広さの絶対値では無く、最大と最小との比が重要です(図.1)。

[図.1] 周波数帯域

周波数帯域

◆ なお、ディジタル信号(パルス波形)は、角の部分は、高調波を含んでいます。ディジタル信号であれば、それは当然でありやむを得ないことです。周波数帯域幅は、基本波の周波数(パルス幅)の最大と最小とで評価します(図.2)。

[図.2] 基本波で評価する

基本波で評価する

◆ 単純なパルス波形であれば、符号の周波数帯域幅は、最低で 2 です。バイフェイズ符号は、この条件を満たす、優れた符号です。

6.1.(2-B) 直流成分

◆ 直流成分が問題になる場合があります。たとえば、トランス絶縁では、直流を重畳させることができません(5.1.(2-A))。
この直流成分には、3 つの意味があります。第 1 は、パルスデューティが、50% ではないことです。デューティー 50% から隔たると、その隔たりに比例して、直流成分が生じます(図.3(a))。

[図.3] 直流成分がある

直流成分がある

◆ デューティーが 50% であっても、ハイとローとの値の平均値が 50% でなければ、直流成分があります。
もう 1 つは、パルスデューティーが 50% であっても、パルス幅が、トランスの ET 積に比べて長いために、その部分が直流成分であるとみなされる場合です。
バイポーラ符号も、直流成分がありません。

6.1.(2-C) クロック成分を含ませる

◆ 同期式の伝送では、データと共に、クロック信号を送る必要があります。
このクロックを送るのに、データとは別線でクロックを送る代わりに、データとクロックとを多重化して送り、受信側で、多重化された信号からクロック成分を抽出する方式があります。このデータとクロックの多重化の手法の 1 つとして、符号化があります(図.4)。

[図.4] 符号化によるデータとクロックの多重化

符号化によるデータとクロックの多重化

◆ たとえば、バイフェイズ符号は、ビットの中央には、必ず変化(ハイからロー、またはローからハイ)があります。すなわち毎ビットに、クロック情報が含まれています。
バイフェイズ符号の場合には、毎ビットにクロック成分があります。したがって、簡単に符号の中からクロックを抽出することができます。
しかし、クロック情報は、何ビットかに 1 つであっても、それから、きれいなクロックを抽出することが可能です。

6.1.(3) 符号の種類

◆ 伝送に使用される主な符号を 図.5 に示します。それぞれ長所/欠点がありますから、目的用途によって使い分けます。

[図.5] 伝送に使用される主な符号

伝送に使用される主な符号

◆ 直流成分は、その符号に直流成分を含むかどうかを示します。クロックの完全とは、毎ビットにクロック成分を含む符号です。不完全は、(1)と(2)がありますが、その意味は、6.2.に示します。配線,極性の区別は、配線するときに、その極性(プラス/マイナス)を区別する必要があるか、区別しないで、反対に繋いでも正常に動作するものかを示します。
◆ 各符号について、説明する必要があるものを簡単に説明します。
バイフェイズ符号 : マンチェスタ符号 とも呼ばれています。原理的には、位相の違いでゼロと 1 とを識別しますが、180°異なる 2 つの位相なので、結果的に、図のようにビットの中央で、信号が立ち上がるか、立ち下がるかの区別になります。
◆ 差動バイフェイズ符号 : 位相で 1 とゼロとを識別しますが、位相の絶対値ではなく、前のビットと同位相であるか、位相が異なるかによって区別します。
位相は、本来相対的なものですから、差動形の方が合理的です。しかし、歴史的に古くからあるバイフェイズの方が普及しています。
◆ f/2f符号 : FM 符号ともいいます。周波数の違いで 1 とゼロを識別します。結果として、波形は、差動バイフェイズと同じです。ただし、位相が 1/2 ビットずれています。
◆ RZ符号 : RZ は、リターンゼロで、ビットの前半だけにパルがあり、後半はゼロになることを意味します。ただし、RZ は、一般名称ではなく、図に示す特定の波形を意味します。この点では、NRZ 符号も同じです。NRZ は、ノンリターンゼロですが、その性質を持つものの一般名称ではなく、特定の符号を意味します。
◆ バイポーラ符号 : RZ 符号を 2 極性としたものです。この符号は、既に 5.3.(4) で紹介しています。
◆ AMI符号 : RZ と同じく、パルスの有無で 1 とゼロを識別します。このパルスのデューティーは、各種の値を取り得ますが、ここには、デューティー 100% のものを示してあります。厳密には、デューティー 100% AMI と呼ぶべきものです。なおデューティー 50% の AMI が、RZ 符号です。
◆ 以上の中で、多く使用されているのは、「RZ」、「バイフェイズ」、「差動バイフェイズ」、「バイポーラ」、「AMI」、「NRZI」です。
なお、NRZI は、周波数帯域が広いので、電気ケーブルには向きません。光ファイバ伝送に使用されています。また、RZ は、直流成分がありますから、トランス絶縁には使用できません。

6.1.(4) 符号化/復号化の回路

6.1.(4-A) バイフェイズ符号

◆ バイフェイズ符号は、LANイーサーネットで使われている符号です。図.6 に、バイフェイズ符号の符号化回路を示します。

[図.6] バイフェイズ符号の符号化回路

バイフェイズ符号の符号化回路

◆ ヒゲ(ハザード)は、この回路が簡略なので、発生する可能性があります。ヒゲが問題になる場合は、ヒゲの無いタイミングのクロックで切り直すか、ハザードが発生しない回路を使用します。
イーサーネットで使われいる回路(図.7)は、トランス絶縁を含む、本格的な回路です。

[図.7] イーサーネットのドライバ/レシーバ回路

イーサーネットのドライバ/レシーバ回路

◆ 簡単な復号化回路を、図.8 に示します。

[図.8] バイフェイズ符号の復号化回路

バイフェイズ符号の復号化回路

6.1.(4-B) 差動バイフェイズ符号

◆ 位相は、元来相対的なものです。すなわち、基準になる位相を設定して、その基準からの位相差を使用します。この意味で、バイフェイズ符号よりも本質的な符号です。このことから、差動バイフェイズ符号のことを、単にバイフェフェイズ符号と呼ぶことがあります。
◆ 符号化回路を図.9 に、復号化回路を図.10 に示します。

[図.9] 差動バイフェイズ符号の符号化回路

差動バイフェイズ符号の符号化回路


[図.10] 差動バイフェイズ符号復号化回路

差動バイフェイズ符号復号化回

6.1.(4-C) f/2f 符号

◆ 符号化回路、復号化回路を、図.11、図.12 に示します。

[図.11] f/2f 符号 符号化回路

f/2f 符号 符号化回路


[図.12] f/2f 符号 復号化回路

f/2f 符号 復号化回路

◆ 符号化回路は、簡単化のために、モノマルチバイブレータ(ワンショット)を使用しています。この モノマルチバイブレータ は、ノイズには弱いので、全てをディジタル化した回路の方がベターです。

6.1.(4-D) バイポーラ符号

◆ バイポーラ符号は、優れた性質を持った符号です。バイフェイズ符号も優れた符号ですが、その長所/欠点が、相反します。目的用途によって使い分けます。
バイポーラ符号については、既に 5.3.(4) で紹介しています。
◆ バイポーラ符号が、最も優れている点は、信号の(基本波の)周波数帯域が低く、かつ狭いことです(図.13)。

[図.13] バイポーラ符号の周波数帯域

バイポーラ符号の周波数帯域

◆ バイポーラ符号は、パルスの有無で 1 とゼロとを区別します。ここでは、1 がパルス有りとします。
◆ (a) は、1が連続し、このとき、信号の周波数が最も高くなります。このときでも、基本周波数は 1/2 です。バイフェイズ符号は、周波数が 1 または 1/2 ですから、最高周波数を比較すると、バイポーラ符号のほうが、優れています。伝送路の周波数特性は、高周波ほど減衰が大きいので、信号の周波数が低い方が、減衰が少なくて、得です。
◆ (b)は、1 が飛び飛びの場合です。信号の周波数は、低くなっています。(c)は、NRZ 符号が、同じ周波数になっている場合を示します。(b)と(c)とを比較すると、周波数は同じですが、信号のパワーは、バイポーラ符号の方が、はるかに小さいことが分かります。
◆ 信号の周波数帯域は、NRZ 符号も、バイポーラ符号も、共に非常に低い周波数まで伸びています。しかし、定量的には、バイポーラ符号は、無視できる程度の大きさです。図の (b)は、定量的には、(c) の下側に示したように、(a) と同じ周波数成分がほとんどと考えられます。
◆ 以上から、バイポーラ符号は、低い周波数は無視できて、実用上は、1/2 の単一基本周波数とみなすことができるのです。

6.1.(4-E) AMI 符号

◆ AMI 符号のパルスデューティーは、ゼロから 100% までを取ることができます。しかし、実用されているのは、50% と 100% の 2 種類です。このうち、50% のものは、バイポーラ符号の名で呼ばれています。したがってAMI 符号の名で呼ばれるものは、事実上 100% AMI 符号だけです。したがって、100% AMI 符号のことを、通常は単に AMI 符号と呼んでいます。
◆ AMI 符号の符号化/復号化回路(トランス絶縁)を、図.14図.15 に示します。

[図.14] AMI 符号の符号化回路

AMI 符号の符号化回路


[図.15] AMI符号 復号化回路

AMI符号 復号化回路

◆ AMI 符号は、パルス有りが、連続しないで間が空いたときの伝送波形の性質は、バイポーラ符号の伝送速度を 1/2 にしたときと同じです。しかし、パルス有りが連続すると、その基本周波数が 2 倍になりますから、周波数帯域が広くなります。この点で不利ですが、同じ伝送速度のバイポーラ符号と比べて、パルス幅が 2 倍になります。
◆ 伝送信号を受信するときは、クロックのエッジで、伝送信号をサンプリングします(図では、クロックの立下りでサンプリングしています)。パルスの幅が広いということは、伝送信号のタイミングが、ばらついたとき、そのばらつきが大きくても、誤り無く受信できるということを意味します。
◆ AMI 符号は、ISDN に使用されています。詳細な理由は省略しますが、INDN では、サンプリングのタイミングのバラつきが大きいので、AMI 符号が採用されました。
◆  AMI 符号の、ちょっと変わった使い方の例を、紹介しておきます(図.16図.17)。

[図.16] AMI 符号を振幅変調のように使用する(ドライバ側)

AMI 符号を振幅変調のように使用する(ドライバ側)


[図.17] AMI 符号を振幅変調のように使用する(レシーバ側)

AMI 符号を振幅変調のように使用する(レシーバ側)

◆ トランス絶縁に利用した例です。最近のデータ伝送は、高速化が進んでいます。しかし、用途によっては、低速の伝送が必要なときがあります。トランス絶縁は、絶縁の手段として優れています。しかし、低速では、トランスの寸法が大きくなり、省スペースが困難です。
そこで、低速のデータを、高速の符号で符号化します。図の例では、実際の伝送速度の 8 倍の符号を使用しています。これによって、小さい寸法のトランスを使用することができます。


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