◆ フラットケーブルは簡便ですが、特性が劣り、長距離伝送はできません。ツイストペアケーブルは、平衡であり、優れた性質を持っています。しかし、普通のツイストペアケーブルは、クロストークに関しては効果がありません。
図.12(a)に示すように、ツイストのピッチが等しい場合には、互いの誘導に関しては打ち消すことができないからです。
◆ しかし、(b)のように互いのピッチが異なると、打ち消すことができます。図は、ちょうどピッチが 2 倍ですから、具合よく打ち消しています。一般にピッチが n:m のときも、n と m との最小公倍数の長さで打ち消します。
市販されている代表的な多対のツイストペアケーブルには、2系統の製品があります。
1つは短距離用のケーブルです。たとえば、ツイストされている コンピュータケーブル は、これに属します。ツイストのピッチは短く、かつ揃っています。
クロストークには効果がありませんが、短距離用ですから、クロストークを考える必要はありません。ツイストのピッチが短いということは、より高周波のノイズ、局所的な外部ノイズに対して強いということです。
もう一つは、 通信ケーブル (電話用ケーブル)などの、長距離用ケーブルです。長距離では、クロストークが大きいので、互いのピッチを変えてあります。ただし、通信ケーブルは、電話(低周波)用ですから、ピッチは、長くなっています。
◆ 通信ケーブルのクロストーク実験の結果を示します。図.13は実験回路です。
◆ ドライバは、2 種類あります。(a)は、一般的なドライバです。(b)は、この実験のために特に作ったドライバで、故意に大きなノイズを発生するように、ドライバの負荷に、リレーのコイルを、使用しています。(c)は、レシーバです。
使用したケーブルは、通信ケーブルの1種で、 市内ケーブル と呼ばれるものです。仕様は、5対、一括シールド、0.65φ、400mです(ツイストのピッチはペア毎に異なっています)。一括シールドですから、外部とはシールドされていますが、互いのペアはシールドされていません。
信号の往きと復りとに別の対を使用すれば、ツイストされない平行ケーブルと同等になります。このことを利用して、平行ケーブルの実験も行ないました。
◆ ドライバ(b)を使用して、故意に大きなノイズを発生させたときの、実験結果を図.14〜図.16 に示します。図中の記号は、下記のとおりです。
DN : 図.13(b)のノイズ性ドライバ
D1、D2 : 図.13(a)の通常形ドライバ
R1、R2 : 図.13(c)のレシーバ
◆ ツイスト線は、ノイズを受けない/発生させない、の両方とも優れたケーブルです(4.(3))。したがって、受けるクロストークは、大きくありません。また十分に細いパルスです。高周波なので、フィルタで簡単に取り除くことができます。
◆ 両側ツイスト線(図.14)と比べ、クロストークが大きくなっています。しかし、大きな差ではありません。このことは、発生側がツイストされいる効果が大きく、ノイズの発生自体が十分に抑えられていることを意味しています。
◆ この組み合わせは、当然、最も大きなクロストークとなっています。この図では、細いパルスのピークが、図の外に飛び出していますから、図上では、確認はできませんが、パルスのピークツピーク値は、著しく大きいという程ではありません。この実験における著しい現象は、クロストークで、低周波の、信号の波形が乗ってきた、ということです。
この現象は、フラットケーブルの、クロストークでも見られた現象です(図.6(a))。クロストークが大きいときは、高周波の電圧ピーク値が大きくなるよりも、低い周波数まで、クロストークが広がる、ということです。
◆ 以上は、故意に大きなノイズを発生させたときの波形です。ノイズ発生側が、正常な信号の場合は、どうなるでしょうか(図.17)。
◆ 故意に大きなノイズを発生させたときに比べて、桁違いに、クロストークの大きさが、小さいことが分かります(この図の縦軸のスケールは、他の図と異なることに注意して下さい)。
◆ 次に、コモンモードノイズについて、実験してみます。ツイスト線であっても、コモンモードに対しては、ツイストの効果はありません。したがって、実験は、両側ツイスト線についてだけ行いました(図.18)。
◆ ノイズ発生源の信号の波形が現れています。しかし、この信号は、非常に広い幅を持っています。この原因を調べてみましょう。図.19は、図.18と同じ場所の波形ですが、信号ではなく、商用電源周波数(50Hz)に同期させて、観測した波形です。
◆ 信号に、商用周波数成分が、大きく重畳していることが分かります。この実験では、ドライバ、レシーバは、接地されていません。したがって、大地からは浮いています。コモンモード電圧は、大地を基準にして観測しています。このため、観測場所は、大地に対して、ハイインピーダンスです。ハイインピーダンスの部分には、大きなノイズ電圧が乗ってきます(1.(3-E-b))。
商用周波数は低周波ですから、ノイズは、発生し難く、伝わり難い筈です(1.(3-E-a))。しかし、商用電源は、付近に、大きなパワーで存在します。ハイインピーダンスのところでは、かなりの電圧になっても、不思議ではありません。
◆ 実は、クロストークには、近端漏話と遠端漏話との 2 種類があります。伝送距離が長いときは、これを区別する必要があります。なお、7.(3)の実験は、400m と長いようですが、ここでいう、「伝送距離が長い」には、該当しません。並行して走る信号線は、図.20 に示すように、信号を同方向に伝える場合と、反対方向に伝える場合とがあります。
◆ クロストークは、伝送路の各部分で発生します。しかし問題になるのは、受け側のレシーバのところにおける、総合されたクロストークの大きさです。図の(a)におけるクロストークを ニアエンドクロストーク ( 近端漏話 )、(b)を ファーエンドクロストーク ( 遠端漏話 )といいます。
伝送距離が長いと、信号は減衰します。この減衰は周波数特性を持っています。信号の周波数が高いと減衰量が大きくなります。遠端漏話では、信号も、クロストークも同様に減衰して、到着します。信号自体が減衰しても、クロストークも減衰しますから、相対的に、S/N は、変わりません。
しかし、 近端漏話では減衰した信号に対して、減衰しないクロストークが加わりますから、S/Nが低下します。すなわち、 近端漏話の方が条件が厳しいのです。さきに示したクロストークの実験は、近端漏話です。ただし、実験の距離では、遠端漏話も、あまり違いはありません。
◆ 実験は、狭い範囲しか行っていませんので、 近端漏話を含めて、広い周波数に、またがるデータを図.21〜図.23 に示します。
★ 信号のクロストークは、通常有害です。しかし、クロストークが、普通に使われいる意味は、対話、または対談です。対話や対談は、お互いに話し合っているうちに、新しい発想が生まれてきて、思わぬ方向に発展する可能性が、あり、大いに有効です。
★ 人と人とのクロストークは、さておいて、クロストークにも、いろいろなクロストークがあります。
★ LP レコードは、左右の 2 チャンネルを 1 本の音溝に記録します。この 2 本の音溝は、互いに直交し、原理的には独立ですが、実際には、クロストークがあります。
★ 生物の営みは、刻々と変動する、生育環境に応じた、情報伝達を、巧みにコントロールすることによって、成り立っています。このような情報伝達を、バイオクロストークといいます。
たとえば、手の動作は、いろいろな筋肉の働きによって、成り立っていますが、その間にはクロストークが存在します。義手の掌や指の動作は、活きている腕の筋電位を測定して、その筋電位を利用して、制御を行います。指、掌、腕の動作と、その制御には、複雑なクロストークが存在します。このクロストークを考慮して、制御を行っています。
★ 次は、信号のクロストークについての話題です。最近は、家庭でも、LAN を使うことが多くなっています。LAN では、LAN 用ケーブルを使用します。正しく使用すれば、クロストークの心配は、実用上ありません。しかし、間違って結線すると、クロストークが問題になります。
★ LAN 用ケーブルは、通常は、4 対のケーブルで、その内、2 対の線を使用し、残りの線は、空きにします。このとき、1〜2 番の線を 1 つの対とし、3〜6 番の線を、もう一つの対として、使用するように、します。コネクタ付きのケーブルを、利用すれば、問題ありませんが、自分でコネクタを取りつけるときは、結線に、注意が必要です。