データ伝送web講座

7. 多重伝送とネットワーク伝送

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7.3. L A N

7.3.(1) はじめに

◆ 汎用の伝送システムとして、LAN は、極めて身近なものとなっています。個人でも、複数台のパソコンを持つことが多くなっています。このパソコンをケーブルやワイヤレスで接続すれば、2 台であっても、立派な LAN です(図.14)。

[図.14] 立派な LAN である

立派な LAN である

◆ 最近のパソコンは、LAN 用のインターフェースを内蔵しています。内蔵していなくても、10/100M/秒の ネットワークボード /ネットワークカー ドが、安く手に入ります(図.15)。

[図.15] LAN 用インターフェース

LAN 用インターフェース

◆ このような、簡易 LAN は、簡単にインターネットに接続できます。ただし、プロバイダによっては、複数接続を禁止しているところもあります。複数接続できる場合も、具体的方法は、プロバイダにより異なります。
以上のように、LAN は、極めて身近な存在です。ここでは、LAN について、解説します。ただし、この講座の、他の章節に比べれると、かなり簡単です。LAN は、LAN だけで、一つの講座になり得ます。

[注] 筆者も、1 冊の本、「パソコン LAN 構築マニュアル」を著しています。

◆ この講座では、LAN 自体については、簡単に説明します。
その代わりに、LAN に深く関係していることでありながら、他では、あまり触れられていない、トラフィック解析について、次節(7.4)で、解説します。

7.3.(2) LAN の歴史

7.3.(2-A) LAN の始まり

◆ LAN は、任意間伝送が可能で、汎用ネットワーク伝送としては、最も高機能な伝送装置です。LAN の歴史は、1969 年に遡ります。現在のインターネットの前身は、アーパネットと呼ばれるものです。アメリカの国防総省が、軍事目的のコンピュータ ネットワークを構築するための、実験的なネットワークが、アーパネット です(図.16)。

[図.16] アーパネット

アーパネット

◆ 図から分かるように、ローカルではなく、ブロードです。そして、1973 年には、今最も多く用いられいるイーサネットの前身が、ゼロックス社で開発されています。
一方これとは独立に、日本でも、1972 年に、データハイウェイ の名で、製鉄所で 1 号機が稼動しています。製鉄所は、広大な敷地です。そこにある各工場を繋いで、集中制御を行うことが目的でした。本格的な実用という意味では、世界に先駆けていました。そして、数年の内に、各製鉄所に急速に広まりました。
◆ 一方、1976 年に、イーサーネットの名前で製品が出されています。伝送速度は、3Mビット/秒でした。その後、LAN の標準化が、進められ、1980 年に、標準規格が公開されました。伝送速度も、10Mビット/秒になリました。
◆ イーサーネットは、当初、同軸ケーブルを使用した、バス形でした。構成を図.17 に、概略仕様を表.1 に示します。

[図.17] イーサーネット(10BASE5)

イーサーネット(10BASE5)

[表.1] 概略仕様

概略仕様

◆ セグメント が、1本のバスで、1 つのネットワークを構成します。それをリピータで接続するすることによって、インターネットワークを構成し、最大仕様に対応します。当時としては、十分すぎる仕様でした。
規格名称は、10BASE5 です。最初の 10 は、伝送速度の、10Mビット/秒を表わします。次のBASE ばベースバンドを意味します。最後の 5 は、伝送距離です。
◆ パケット方式であり、共用伝送路アクセスの方式は、CSMA/CD です。この 10BASE5 は、高価なために、ほとんど普及しませんでした。伝送装置自体が高価なこともありましたが、それにもまして、配線の同軸ケーブルの仕様が高く、配線費が高くつくことが問題でした。

7.3.(2-B) イーサーネットの発展

◆ これを解決するために、現れたのが、細くて安い同軸ケーブルを使用する、10BASE2 です。伝送距離は、180m です。配線費はかなり下がりましたが、それでもなお普及しませんでした(図.18)。

[図.18] 10BASE2

10BASE2

◆ そして、最後に出てきたのが、10BASET です。10BASET の T は、ツイストペアケーブルの T です。
当初は、10BASE5/10BASE2 から分岐するものとして開発されました(図.19)

[図.19] 当初の 10BASET

当初の 10BASET

◆ しかし、その後、10BASET は、単独で用いられるようになりました。図.20 に示すように、ノードを束ねる装置を、ハブといいます。

[図.20] 10BASET を単独で使用する

10BASET を単独で使用する

◆ ハブは、図.21 のように、段重ねにすることによって、ノード数を増し、距離を延ばすことができます。

[図.21] ハブを段重ねにする

ハブを段重ねにする

◆ 10BASET で使用するツイストペアケーブルは、構内電話網のケーブルを利用することができます(ただし、規格の性能を出すためには、カテゴリ 3 以上のケーブルが必要です)。LAN のために、新たにケーブルを引く場合においても、同軸ケーブルに比べて、はるかに簡単で安くできます。
このことから、オフィスでの利用に適しています。イーサネットは、オフィス用のLAN として、急速に普及しました。
◆ 10BASET は、かなりの期間使用されましたが、その後高速化の要求が高まり、現在では、伝送速度が 10 倍の、100BASET が主流になっています(ケーブルは、カテゴリ 5 です)。そして、最近では、さらに 10 倍の、1000BASET も出現しています。
また、ハブは、より効率の良い、スイッチングハブになっています。

7.3.(3) LAN におけるデータのやり取り

7.3.(3-A) アドレスによるやり取り

◆ LAN においては、各ノードはアドレスを持っています。そして、アドレスによってデータのやり取りを行います。この点は HDLC と同様ですが、HDLC が親子式に限られるのに対して、LAN は任意間伝送です。したがって、宛先アドレス と、送り元アドレス の両方が必要です(図.22)。

[図.22] LAN のアドレス

アドレスの構成 メッセージの組み立て

7.3.(3-B) タイムシェアリング機能と変換機能

◆ LAN の伝送速度は、一般に、ユーザーがデータのやり取りをするよりも、はるかに高速です。これによって、多数のノードのパケットを、見かけ上同時に送ることができます(2.4.(2-B))。これは、タイムシェアリングと同等の機能です。この具体的なやり方を、図.23 に示します。

[図.23] パケット方式によるタイムシェアリング機能

パケット方式によるタイムシェアリング機能

◆ 図に示しように、バッファリングしていますから、デバイスの伝送速度が、互いに異なっていても、伝送を行うことができます(図.24)。

[注] バッファリングとは、パケットを一時的にバッファメモリに蓄えることです。

[図.24] 速度変換機能

速度変換機能

◆ ただし、当然のことですが、低速のデバイスが、データを連続してやり取りしていても、高速側のデバイスは、パケットをやり取りしていない、休止期間ができます。
◆ また、伝送路が半 2 重であっても、全 2 重の動作を行うことができます(図.25)。

[図.25] 全 2 重で動作する

全 2 重で動作する

◆ 図で、送信バッファと受信バッファとは、タイムシェアリング的に、動作します。
◆ コンピュータのように、自身がタイムシェアリング的に動作可能なデバイスに場合には、コンピュータとノードとのインターフェースを、一つにまとめることができます(図.26)。

[図.26] コンピュータ インターフェースの簡単化

コンピュータ インターフェースの簡単化

7.3.(4) 各種のLAN

7.3.(4-A) イーサネット

◆ イーサーネットは、元々は、バス形です。バス形では、共用伝送路をアクセスする制御方式に、CSMA/CD を使用しています。しかし、さきに述べたように、ハブによる、トリー形が主流になりました。
◆ トリー形であれば、原理的には、パケットの衝突を回避することができます。しかし当初は、バスと同じに、CSMA/CD が使用されていました。当初は、イーサーネットの 10Mビット/秒は、十分に速く、あえて実効伝送速度を上げる必要が無かったため、バス形との互換性を重視したのでしょう。
◆ しかし、その後、高速性が要求されるようになり、スイッチングハブになりました。そして、さらなる高速性を満たすため、伝送速度も、100Mビット/秒の 100BASET となりました。現在は、100BASET(スイッチングハブ)が主流です。伝送速度が 1Gビット/秒の、1000BASET もあります。

7.3.(4-B) トークンリング

◆ 最も早く実用されたのは、トークンリングです。すなわち、データハイウェイはトークンリングでした。トークンリング トポロジは、ループ形です。ループ形では、各ノードが、中継器になっています(図.27)。

[図.27] トークンリングのノード

トークンリングのノード

◆ 常時は、中継モード(スイッチが B 側)で、上流からきた信号は、下流側に中継し、同時に、これを受信しています。自局から送信するときは、スイッチを送信側(A 側)に倒し、送信を行います。
◆ トークンリングでは、ループの中を、常時トークンが回っています(図.28)。トークン とは、送信を許可する符号です。

[図.28] トークンが回っている

トークンが回っている

◆ 送信要求があるノードは、トークンを捕捉することによって、送信権を獲得し、1 パケット送信します。図.29は、送受信制御の 1 例です。

[図.29] トークンによる送受信

トークンによる送受信 トークンによる送受信

◆ トークンリングの特徴は、
(1) CSMA 方式のような衝突が無いので、輻輳のときでも、実効伝送速度が保証されます。すなわち、渋滞現象がありません。
(2) ケーブルの仕様にもよりますが、イーサーネットより、距離的規模を大きく取れます。
(3) ノードの故障がシステムダウンを引き起こします。信頼性の高いシステムを構築するためには、バックアップ対策が必要です。バックアップ対策を、きちんと取れば、逆に、高い信頼性を確保することができます(コラム 7.2 参照)。
◆ 以上の特徴から、生産工場などに多く使用されています。ただし、配線の自由度の点からは、トリー方式の方が優れています。親子式でよい場合は、親子式のトリー方式が適しています。
◆ トークンリング方式の、代表的製品に、IBM のトークンリングがあります(規格 IEEE802.5、表.2)。

[表.2] トークンリングの仕様

トークンリングの仕様

◆ 表で、集線装置は、図.30 に示すものです。これによって、外見上はスター形になります。故障対策として、バイパス制御を行うときには、外見スターが有利です。

[図.30] 集線装置

集線装

◆ バイパス制御は、故障したノードをバイパスして切り離し、システムダウンを防ぎます(図.31)。

[図.31] バイパス制御

バイパス制御

◆ トークンリング方式には、100M/秒の FDDI があります。また、トークンリングの他に、トークンバス方式が規格化されています。トークンバス方式は、トポロジはバスですが、論理的にはループのように動作します(図.32)。

[図.32] トークンバス

トークンバス

◆ トークン方式ですから、衝突がありません。しかし、ループに比べて、制御が複雑なことが欠点です。

[コラム 7.2] LAN の信頼性

★ 一般にネットワークは、高い信頼性が要求されます。信頼性 は、故障を起こすことなく正常に動作する程度を、定量的、確率的に評価する尺度です。ある部品、機器または装置が故障する確率を F、信頼度を R とすれば、
     R = 1 - F
で表わされます。
★ 信頼性を高くすることは、基本的には、部品や機器の信頼性を高くすることです。しかし、その他に、システムの組み方による方法があります。代表的はものは、バックアップ です。予備機を置き、常用機が故障したとき、予備機に切り替えます。
★ 以下 LAN の信頼性について解説します。具体的なバックアップ方式は、トポロジに依存します。トリー形では、上位のハブが支配的です。必要に応じて、上位のハブを 2 重化します。
★ バス方式は、通常バックアップしません。ノードが故障したとき、またはノードの電源が断になったとき、伝送路から見たノードがハイインピーダンスになるように設計しておけば、故障や停電は、システムに悪影響を及ぼしません。

ハイインピーダンスにする

★ ループ方式は、ノードが中継器になっていますから、ノードの故障がシステムダウンに繋がります。その代わり、バックアップを十分に施すと、極めて信頼性の高いシステムを構成することができます。
★ 最も簡単安価な方式は、ワイヤバイパス方式です。規格のトークンリングもワイヤバイパスです。

ワイヤバイパス方式 ワイヤバイパスの問題点 アンプバイパス

★ しかし、図の(b)に示す欠点があります。この欠点を避けるためには、(c)のようにする必要があります。信頼性を、さらに高くするには、ノード自体をバックアップ機にします。
★ 極めて高い信頼性を確保する方式として、ケーブルも 2 重化した、ループバック 方式があります。

正常時 局故障時 伝送路断時

★ 一般にケーブルは、機器に比べると、信頼性は高いのですが、断線などの事故も、絶無ではありません。ケーブルを 2 重化するとき、異なった経路で配線すると、最も信頼性が高くなります。



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