◆ ネットワーク伝送は、広義には、ネットワークを作っている伝送システム全てをいいます。しかし、この節(7.2.)では、7.1. で解説した多重伝送と、次の 7.3. で述べる LAN との中間に位置付けられるものについて解説します。
LAN はローカルにおける汎用かつ高速・高度な伝送システムです。多数のノード間で、任意間伝送できることが特徴です。これに対して、この節で述べるネットワーク伝送 は、親子式 の伝送です。親局は、任意の子局を指定して、伝送を行います。子局は、親局に対してデータを送ります。
◆ 一般に、生産システムでは、情報構造が、階層形のトリー構成になっている場合も多く、したがって、伝送系も親子式で十分なことが多いのです。多重伝送にも、ネットワーク形のものがありますが、多重伝送の伝送方式はサイクリックです。
これに対して、ネットワーク伝送では、パケット方式が使われています。
◆ パケットは、パケット交換にも使われています。パケット交換では、中央に交換機があり、交換機が伝送を制御しています。ネットワーク伝送においても、トポロジが、トリーのときは、親局が交換機の役割を果たします。
しかし、バス方式のときは、親は任意のタイミングでパケットを送出することができますが、子局は勝手に送信すると、パケットが衝突して伝送できない恐れがあります。したがって、子局は、親局の制御の下に動作します。この親子式の伝送を、ポーリング/セレクション 方式と呼んでいます(図.9)。
◆ 親は子局のアドレスを指定してデータを送ります。これを、セレクションといいます。子局は、データを受け取ったら、それを確認する返事 レスポンス を返します。
親が子を呼び出すことを、ポーリングといいます。子局は、自分のアドレスを指定した親からのポーリングを受け取ったときに、データを送信します。送信するデータがないときは、送信すべきデータが無いという返事をします。
◆ ポーリング/セレクションでは、このように、親からの送信に対して、子から返事をするという、対になっており、例外を認めません。このため、プロトコルが単純、明快であることが特徴です。
子は、親からポーリングされないと、データを送ることができません。しかがって、親は、各子局に対して、サイクリックにポーリングを繰り返す必要があります。このためのオーバーヘッドが大きいことが欠点です。しかし、純粋のサイクリック伝送と比較して、不要なデータを送らない分、実効の伝送速度が速くなります。
◆ 実効の伝送速度という点では、LAN における、CSMA/CD 方式の方が優れています。ただし、先にも述べたように、CSMA/CD方式は、伝送要求が多くなると、著しい輻輳(道路の渋滞と似た現象)が起こります。
ポーリング/セレクション方式は、効率は悪いのですが、CSMA/CD のような輻輳が無く、レスポンスタイム(コラム.7.1 参照)が保証されます。したがって、目的用途によって使い分けます。
★ 伝送システムの性能を評価する指標として、先ず第一に挙げられるのは、伝送速度です。しかし、伝送速度だけでは、評価できない性能があります。そこで、レスポンスタイムとスループットという 2 つの指標を導入します。
スループット は、単位時間に送られる、ネットデータの量です。
★ 伝送速度は、単位時間に送られる、情報量で、単位はビット/秒です。スループットも単位は、ビット/秒です。しかし、送られる情報が全てデータなのではありません。
簡単な例を挙げると、非同期式では、データに、スタートビットとストップビットを付け加えます。これを勘定に入れると、スループットは、伝送速度の、80%(8ビット/キャラクタのとき)になります。また、データも、ユーザーデータの他に、制御キャラクタがありますから、さらに、その分、スループットが低下します。
★ スループットは、高いに越したことはありませんが、信頼性などを考慮すると、必ずしも十分高くすることは、できません。
レスポンスタイム は、ユーザーが送信を要求してから、実際に送信されるまでの時間です。
★ これは、伝送系だけでなく、ユーザーソフトなども影響します。ユーザーにとっては、全てを含んだ、レスポンスタイムが重要でしょう。
しかし、伝送系を評価するときには、当然伝送系の部分だけのレスポンスタイムを考える必要があります。
★ 伝送系の仕様と、その使い方が同じであれば、スループットもレスポンスタイムも、共に伝送速度に比例して改善されます。しかし、システムや使い方が異なると、場合によっては、スループットとレスポンスタイムとは、互いに相反する事象になります。
★ たとえば、パケットを送るとき、パケットが待ち行列を作っていれば、パケットは切れ目無く伝送されますから、スループットは高くなります。しかし、自分の順番が来るまで待たされますから、レスポンスタイムは長くなります。
★ これに対して、送信要求が、ときたましか、こないのであれば、要求があれば、直ちに送られます。レスポンスタイムは短いのですが、スループットは低い値です。
◆ 今は、ほとんど使われていませんが、以前は、ベーシック手順が使われていました。ベーシック手順は、キャラクタ単位の伝送です。ベーシック手順は、元々は、1 対 1 の伝送ですが、その後、親子式のネットワーク伝送に用いられるようになりました。
◆ キャラクタ単位の伝送では、プロトコルの制御は、制御キャラクタによって行われます(3.3.図.49)。図の、ENQ、ACK などが、制御キャラクタです。ポーリング/セレクションでは、子局はアドレスを持ち、アドレスによって制御を行います(図.10)。
◆ 図の(a)を見た範囲では、1 対 1 の伝送と同じです。しかし、実は ENQ の部分は、図の(b)に示すように、アドレスを含んだ文字列になっています。なお、これは、同期式の例です。φ は、キャラクタ同期を取るための、同期キャラクタ(同期パターン)です。
ポーリングの手順を、図.11 に示します。
◆ ENQ は、図.10 と同様に、文字列です。
◆ パケット方式の、具体的な手順として代表的なものが、HDLC です。HDLC には、各種の動作モードがありますが、正規応答モードが、ポーリング/セレクション方式です。具体的なプロトコルは、3.3.(2-D-a) を参照してください。
HDLC は、HDLC 用の LSI を使用する必要があります。HDLC の機能を内蔵している MPU は、少ないのです。しかし非同期式の UART を内蔵している MPU は、かなりあります。MPU 内蔵の UART を使用すれば、安価にシステムを作ることができます。
◆ 非同期式は、キャラクタベースですが、UART を利用して、擬似的に、パケット単位の HDLC に近いプロトコルを実現することができます。
その 1 例が、図.12 です。
◆ 図で、STAD は子局アドレス、CNO はそのパケットのデータ キャラクタ数、BCC は、伝誤り制御用のコードです。
この方式では、1 パケットのデータを、まとめて連続して送信します。1 定時間データの受信が無いことがパケットの終了を意味します。したがって、これを利用して判定すれば、CNO が無くても、動作させることができます。
◆ UART の中には、サーチモードを持っているものがあります。サーチモードでは、受信した最初のキャラクタを、予め設定してあるアドレス値と比較して、一致すると以降のキャラクタを取り込み、一致しないと無視します。
このサーチモードをもっている UART を使用すれば、ソフトウェアの負担が軽減されます。
◆ 本格的な任意間伝送の機能を持っているのは、LAN ですが、大部分は親子式で、少数のものだけが、任意間伝送を必要とする場合があります。このような場合には、親子式のプロトコルをモディファイする方式があります。
◆ たとえば、子局が親局以外にデータを送りたいときには、親からポーリングされたときに、送信先アドレスを持つコマンドをつけて、データを送ります。親は、セレクションによって、そのデータを、指定先に転送します。
◆ 多重伝送装置で、センサ情報などを送るのと、ほぼ同様な用途に、リモート プロセス入出力装置 があります。1 対 1 の装置もありますが、多くはネットワーク伝送です。
ハードウェア相互で、データのやり取りをするときは、多重伝送が便利です。しかし、コンピュータの場合は、多重伝送よりも、リモート プロセス入出力装置の方が使い易いのです(図.13)。
◆ 多重伝送装置が、サイクリック伝送であるのに対して、リモートプロセス入出力装置は、ポーリング/セレクション方式です。
コンピュータが多重伝送装置を使うときは、コンピュータは、内部にテーブルを作っておきます。多重伝送で送られてきたデータは、その都度(したがってサイクリックに)テーブルに書き込みます。そして、コンピュータがデータを必要とするときは、テーブルに書き込まれたデータを利用します。
◆ リモート プロセス入出力装置であれば、コンピュータが、データを必要とする都度、ポーリングを行います。したがって、多重伝送装置よりも、リモート プロセス入出力装置の方が、簡単で、コンピュータの負担が減ります。
コンピュータがデータを出力する場合も、ほぼ同様で、コンピュータにとっては、リモート 入出力装置の方が、簡単です。