データ伝送web講座

2. ネットワーク伝送

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2.4 回線交換とパケット交換

2.4.(1) トリーと回線交換

2.4.(1-A) 回線交換とは

◆ スター形や、トリー形の末端部 (図.2の ○ )は、 デバイス毎に、それぞれ 1 回線引かれています。そして、中央が 交換機 になっていて、回線と回線 とをスイッチで接続することによって、交換機能を実現します (図.25)。

[図.25] 回線交換方式の交換機能

回線交換方式の交換機能

◆ すなわち、電話であれば、先ずダイヤルによって、相手のアドレス (電話番号) を送り、スイッチで接続します。そして、切断する (電話であれば、受話器を置く) までは、接続状態を維持します。
接続状態にあるときは、通信を休んでいても、回線は占有され、他から コール され (呼ばれ) ても、「お話中」です。
このような交換のやり方を、回線交換方式 と言います。

2.4.(1-B) ディジタル交換機

◆ ただし、昔は、その通りでしたが、現在では、機能的にそうなって いるだけであって、実際には、コンピュータのソフトウェアによって、 交換機能が実現されています。
このコンピュータによる交換機のことを、ディジタル交換機 といいます。
◆ 電話の場合、音声信号はアナログです。コンピュータ(ディジタル交換機) で処理するために、 A/D変換器 (アナログ/ディジタル変換器 ) でディジタル信号に変換して、コンピュータに入力します。
コンピュータの出力は、 D/A変換器 (ディジタル/アナログ変換器 ) で音声信号に戻します(図.26)。

[図.26] A/D 変換とD/A 変換を行う

A/D 変換とD/A 変換を行う

◆ コンピュータ (ディジタル交換機) に入力したデータは、コンピュータ のメモリに入れ、それから、所定の相手に出力します(図.27)。

[図.27] ディジタル交換機の交換のやり方

ディジタル交換機の交換のやり方

◆ 図で、A、a 等は、接続されている電話機の番号で、大文字が入力、 小文字が出力を表します。図は、音声がデイジタルに変換されている 状態を示しています。
入力側では、音声データを、順に逐次コンピュータのメモリに入れて いきます。交換機能は、メモリからデータを取り出すときに行われます。 メモリから取り出したデータは、出力相手の電話回線に送り出します。 図では、A と C、E と F とが通話中で、B と D とは、空きの状態です。
◆ コンピュータは高速ですから、多数の回線を、1 台のコンピュータで、 タイムシェアリング ( 時分割多重)で処理します。

◆ 電話の音声信号は、最高 3.4kHz のアナログ信号です (コラム.2.1 参照)。このアナログ信号をディジタル化すると、その 伝送速度は、 64kビット/秒です。
A/D 変換するときは、連続なアナログ信号を サンプリング して、飛び飛びのディジタル量にします。 サンプリング周波数は、 元のアナログ信号の 周波数に応じた値をとる必要があります。この値を決めるのが サンプリング定理 と呼ばれる定理です。
◆ サンプリング定理に従うと、元のアナログ信号の、少なくとも 2 倍の 周波数でサンプリングしなければなりません。3.4kHz に対しては、 この値は 6.8kHz です。実際には、余裕を取った、きりの良い値である 8kHz を採用しています。
また、ディジタル変換の 分解能 (ビット数) も、音声を明瞭にするために、8 ビット 必要です。伝送は直列伝送ですから、その伝送速度は、 8 ビット × 8kHz で、64k ビット/秒になります。

2.4.(1-C) I S D N

◆ ディジタル交換機を使用すれば、アナログの音声データもディジタル化 して処理しています。これをもう一歩進めると、回線を含んでオール ディジタル化してしまえという考え方が出てきます (図.28)。

[図.28] オールディジタル化する

オールディジタル化する

◆ A/D、D/A 変換機は、電話機の中に 入れてしまいます。このように、 電話をオールディジタル化すれば、元々のディジタルデータをも統一 して、一つのシステムにまとめることができます。この考え方に 基づいて、できたシステムが、ISDN (統合化ディジタルシステム ) です (図.29)。

[図.29] ISDN の構想

ISDN の構想

◆ ISDN は、電話のディジタル化を発展させたものですから、 その伝送速度は、64k ビット/秒を基本としています。ディジタル信号は、 時分割多重化が容易なので、1 回線に電話を 2 本を多重化して います。ディジタルデータは、128k ビット/秒が可能です。
ISDN は、大きな期待をもってスタートしました。しかし、その後の ディジタル伝送の急速かつ著しい発展によって、現在では、若干 色あせた存在になっています。
◆ 当時は、一般のアナログ電話回線でディジタルデータを送る モデム は、9.6〜14.4k ビット/秒でした。したがって、64〜128k /秒は、 非常に高速でした。しかし現在では、モデムは、56k ビット/秒が普通 です。そして、ADSL を使用すれば、M (メガ) ビット/秒の伝送速度 が得られます。

2.4.(2) バス/ループとパケット交換

2.4.(2-A) メッセージとフレーム

◆ バスやループ形 のネットワークでは、多数のデバイスが、伝送路を共用します。 伝送路を共用できれば、経済性の高いシステムを構築することが できます。 しかし、各デバイスが勝手に伝送路を使用しようとすれば、信号がぶつかり 合ってしまいます。したがって、交通整理が必要です。
また、どこかが長時間伝送路を占有すると、他が待たされてしまいます。
◆ これらを解決する、方式として、第 1 に考えられるのが、 多重伝送です。とくに時分割多重伝送は、 ディジタルデータに適した方式です。
しかし、簡単で優れた多重伝送ですが、一つ大きな欠点があります。 それは、使っていないときでも、単に空いているだけであって、 有効利用ができないことです (図.30)。

[図.30] 多重伝送は空きができる

多重伝送は空きができる

◆ ユーザーが伝送する応用上の 1 塊のデータ (文章) をメッセージ と いいます。また、伝送路に送り出される伝送上の 1 塊のデータを フレーム といいます。1 メッセージを 1 フレームで送信 するのが、もっとも自然な形です (図.31)。

[図.31] 1 つのメッセージを 1 フレームで送る

1 つのメッセージを 1 フレームで送る

◆ 通常、フレームには図に示すように、伝送上の制御情報である ヘッダ トレーラ を、メッセージに附加します。
しかし、この 1 メッセージ / 1 フレーム方式では、上述のように、 共用伝送路の場合には、他が長く待たされる可能性があります。
また、多重伝送の場合には、図.29 のように、 メッセージは小さなブロックに細かく分割され、他のメッセージと 一体になって、1 フレームを構成します (図.29 はフレームの途中の部分です)。

2.4.(2-B) パケットとは

◆ 長いメッセージを分割し、分割した間に他のメッセージを送れるようにして、多重伝送と同様な効果を得ることと、無駄な空きを作らないで効率よく送るという、両方の特徴を共に そなえた伝送方式として考え出されたのが、パケット方式です。 パケット は、次の性質を持っています。

(1) 長いメッセージを 1 フレームで続けて送ると、他が長く 待たされます。待ち時間を短くするために、長いメッセージを、 最大長さを抑えた短いブロックに分割します。そして、各ブロックを 1 フレームとして送信します。このブロックのことをパケットといいます。
(2) 一つのメッセージを分割したパケットとパケットの間に、 他のメッセージのパケットの送信を許容します。 単なる許容でなく、他のメッセージのパケットの送信要求があるときは、 それを優先させる方式もあります。
(3) パケットの送信要求があったとき、伝送路が空いていれば、 直ちに送ります。
(4) 空いていなければ、空くのを待ち、空いたら直ぐに 送信します。
(5) 多重伝送でも、メッセージをブロックに分割して 送りますが、多重伝送では、ブロックの長さも、送るタイミングも 固定です。
多重伝送では、一般にブロックのサイズは小さいのですが、パケットは 若干長く、最大長さの範囲で可変です。最大長さは、そのシステム によって異なりますが、長い方では、1k バイト程度です。

[注] ブロードでは、多重化されたそれぞれのチャンネルが、さらにパケット方式になっている場合も多いのです。

◆ 以上から、パケット方式は、時分割多重伝送と同様の働きをしますが、 時分割多重化と比べると、待ち時間は長く、かつばらつきます。 したがって、時間の厳しい用途、たとえば電話には適さないと考えられます。 音声情報は、アナログの波形が問題になります。伝送時間が、ぶれれば、 波形が変化していまいます。
◆ しかし、一般にディジタルデータは、マクロな伝送速度は保証される 必要がありますが、多少の時間のぶれがあっても差し支えないことが 多いのです。この意味ではディジタルデータに向いています。

◆ これに対して、たとえば、電話のようなリアルタイムのアナログ信号は、その信号をディジタル化(2.4.(1-B)(1-C)しても、パケット方式の伝送には適さないとされてきました。時間がぶれると、波形が崩れてしまうからです。
◆ しかし、最近では、電話の音声信号も、パケット方式で伝送されるようになってきました。すなわちIP−VAN広域イーサーネットなどのパケット交換網を介して通話を行う IP 電話 (VoIP )が実用化しています。
音声信号が必要とするよりも、非常に高速の伝送を行うことによって、信号波形の変化を防ぐことができるからです(図.32)。

[図.32] 高速の伝送を行う

電話信号のパケット伝送

◆ 図のように伝送路上でタイミングがぶれても、音声波形を乱すことはありません。ただし、送信側と受信側の間の遅延時間が大きくなると、ちょうど衛星通信を使ったテレビのように、遅延が耳障りになります。遅延時間をできるだけ抑えるようにしています。
◆ IP 電話は、最初上述のように、IP-VPN や 広域イーサーネットを利用した、企業の電話に使用されました。IP 電話によって、離れた拠点間においての、内線電話が可能となりました。
最近では、ADSL を利用して、個人の電話も IP 化され始めています。また、これとは別に、末端の電話は、通常の電話を使用して、中継網を IP 化して、長距離を安くするサービスもあります。

2.4.(2-C) パケット交換のやり方

◆ パケット交換 のやり方には、2 種類あります。第 1 は、中央に交換機を置いて、そこで交換を行う方式です。基本的には、回線交換のディジタル交換と同じです。ただし、回線交換では、接続の概念が存在し、特定の相手と接続したら、切断するまでは、他からの要求を、お話中として拒否します。
◆ これに対して、パケット交換では、接続/切断の概念が無く、何処からきたパケットでも、自分宛てのものは、受け入れます。もし複数からの要求が同時にきたら、待ち行列を作って、順番に受け入れます。
◆  もう 1 つの方式は、LAN で使用されています。後に LAN の解説で、さらに詳しく説明します。ここでは、概要に止めます。 LAN では、伝送路は共用伝送路です。交換機機能を実現するためには、送信側は、ネットデータに、ヘッダー (制御情報) を附加して送ります (図.33)。

[注] 第 1 の方式でも、ヘッダーを使用しています。

[図.33] ヘッダーを附加する

ヘッダーを附加する

◆ 受信側では、送られてきたパケットのあて先アドレスを見て、それが 自分宛てであれば、そのパケットを読み込みます。自分宛てで無ければ 無視します。このやり方は、コンピュータバス とよく似ています。異なるのは、LAN では、全てのデバイスが送信元になり得ることです。
◆ LAN では、中央に交換機が無く、交換機能は、送信側と受信側との共同作業によって実現します。これを分散交換 と呼んでいます。これに対して、中央に交換機を有する方方式が、集中交換 です。

2.4.(2-D) 衝突の回避

2.4.(2-D-a) ポーリング/セレクション

◆ 互いに離れた場所にある複数のデバイスが送信を行うシステムでは、 各々が、任意にパケットを送信したのでは、パケットの信号が、互いに衝突する 可能性があります。共用伝送路上でパケットが衝突すれば、 パケットは破壊されてしまいます。
◆ この問題を避けるために、従来は、親子式の伝送が行われてきました。 1 台の親を設けて、他のデバイスは、親の制御のもとに伝送を行います。 この代表的な方式が、ポーりング/セレクション 方式 と呼ばれるものです (図.34)。

[注] ポーリング/セレクション方式は、パケット方式だけでなく、従来使用されていた、 1 メッセージ/1 フレームの方式でも、広く使われていた方式です。 ここでは、パケット方式におけるやり方について説明します。

[図.34] ポーリング/セレクション方式

ポーリング/セレクション方式

◆ 親が送信するのを、セレクション といいます。セレクションでは、 親は任意のタイミングで送信を行うことができます。このとき親は子の アドレスを指定します。
◆ これに対して、子は親がポーリング と呼ばれる呼びかけをしたときだけ、 送信を行います。子は、ポーリングされなければ,送信を行うことが できません。したがって、親は、常時ポーリングを繰り返し行う 必要があります (図.35)。

[図.35] 親の制御シーケンス

親の制御シーケンス

この図は、概念を示すもので、詳細なシーケンスではありません。
◆ ポーリング/セレクション方式は、親子式の伝送に限定されます。 また、ポーリングのためのオーバーヘッドが大きく、効率の良い方式 ではありません。しかし比較的確実性が高い式です。工業用途では、 任意間伝送の必要性が少なく、親子式で十分なことが多いので、 現在でも多く使用されています。

2.4.(2-D-b) LAN (CSMA/CD)

◆ LAN は、任意間伝送が可能で、高速、かつ効率が高い 方式です。代表的な 2 つの方式があります。
   バス : CSMA/CD
   ループ : トークン リング
◆ ここでは、バス : CSMA/CD 方式だけを簡単に説明します。 現在最も多く使用されているイーサーネット と呼ばれる LAN の原型です。 CSMA と呼ばれる方式と、CD という方式とを組み合わせたものです。 CSMA は、キャリアセンス マルチプルアクセスの略で、 図.36 に示す制御を行います。

[図.36] CSMA の制御

CSMA の制御

◆ 信号が無いことを確認してから送信を開始しますから、他との 衝突 は発生しないように思われます。しかし、図.37 のような事態がありますから、衝突を完全に無くすことができません。

[図.37] パケットの衝突を無くすことはできない

パケットの衝突を無くすことはできない

◆ 信号は伝送路上を有限の速度で伝わります (約 5μs/km、ちなみに光や 電波は約 3μs/kmです)。したがって、図のようなことが起こります。 A は、CSMA で信号を検出しなかったので送信を開始します。 実は、D からも送信を開始していますから、衝突が発生します。
CSMA には、このような欠点はありますが、制御が簡単で、安くできる という大きな特徴があります。ただし、回線使用率が高くなると、道路 の渋滞に似た著しい 輻輳が起こります。したがって、回線使用率の高い、 効率の良い使い方はできません。
◆ CD の制御は、衝突を無くすという効果はありませんが、衝突 による効率の低下を減らすことができます。CD はコリジョン (衝突) ディテクトの略です。デバイスは、送信を開始したら、 衝突の発生を検出します。衝突を検出したら、送信を中止します。
そしてある時間を置いてから、再送を行います。このとき、再送開始 までの時間をランダム化して、再衝突の確率を低くしています。

2.4.(2-D-c) LAN (スイッチング)

◆ イーサーネットでは、最近は、さらに効率が高い、スイッチングと呼ばれる方式も使用可能です。イーサーネットは、元々は、同軸ケーブルを使用した、バス方式でした。同軸ケーブルは、高価で、かつ施工性が悪く、あまり普及しませんでした。
◆ しかし、安価なツイストペアケーブルを使用した、トリー形の製品が出てから、急速に普及しました(図.38)。

[図.38] トリー形イーサーネット

トリー形イーサーネット

◆ ただし、外形(トポロジー)はトリーですが、論理的には、バスと全く同じです。ハブ は、中央の集線装置で、一般に交換機能を持っています。しかしイーサーネットのハブは、集まった信号を、すべてのノードに送り出しています。したがって、衝突も発生します。
イーサーネットの伝送速度は当初は 10 メガビット/秒でした。この伝送速度は、当時は十分に速く、あえて実効伝送速度を速くする必要はありませんでした。したがって、バスのときと互換性を持たせるために、同じ伝送手順を採用したものと思われます。

◆ しかし、ネットワークの発展から、高性能が要求されるようになりました。この要求を実現するのが、スイッチングハブ です。
スイッチングハブは、交換機能を持っています。すなわち、送られてきたパケットをハブに取り込みます。そして、ハブで送信先アドレスを調べて、相手ノードだけに信号を送ります。したがって、他の空いているノード相互間の伝送を、同時並行して行うことができます。
すなわち、スイッチングハブは、集中交換方式のパケット交換です。


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