◆ プラスチックファイバ は、石英ファイバに比べて、損失が大きいので、長距離を引くことはできません。しかし、施工が容易なこと、安価なことから、短距離の伝送に使用されています。
プラスチック ファイバは、ステップインデックス マルチモードです。伝送距離 50m で、数十〜数百 MHzの伝送速度が可能な製品が、各種あります。
インターフェース用として、オーディオなどに使用されています。
ディジタル家電用のインターフェース規格である、IEEE1394 の光ファイバ版にも採用されています。
最近では、高速/長距離用の製品の開発が進み、グレーデッドインデッククス形で、1Gbps で、100〜500m の製品が出ています。
[注] ここに示したのは、光ファイバ自体の性能です。さらに、O/E 変換器の性能によって制約されます。
◆ 石英ファイバ は、図.12 に示すように、極めて低損失のものが可能です。これを利用すれば、長距離、高速な伝送が可能なように思われます。しかし実際には、別の幾つかの要因から、距離と伝送速度が制約されます。
まず第 1 が、マルチモード光ファイバにおける制約です(図.13)。
◆ マルチモード光ファイバは、複数のモードの光を通します。モードが異なると、光ファイバの中を進む光の角度が異なります。光ファイバの長さが同じでも、光が進む実距離は、モードによって違います。
このため、光ファイバの出口に到着する時間が、モードによって異なります。図の(a)のように、入り口で方形波であった波形は、出口側では広がります。
図(b)のように入り口で細い 2 つのパルスは、出口では 1 つのパルスに、なってしまいます。
マルチモード光ファイバにおける、伝送速度と伝送距離の制約は、図.13 の現象が、その要因です。したがって、損失の周波数特性は、上記の制約に引っ掛かるまでは、フラットです。
◆ 伝送における誤動作を、伝送誤りと言います。伝送誤りの発生原因は、外来ノイズが乗ることも大きな要因ですが、伝送路の周波数特性による、波形歪みも、伝送誤りの主要因の一つです。
電気ケーブルの損失には、強い周波数特性があります。光ファイバと、電気ケーブルの損失の周波数特性 を、図.14に示します。
◆ 一般に周波数特性は、縦軸を dB で目盛ります。図.14では、dB を、さらに対数で目盛ってあります。すなわち、2 重対数です。この目盛りで、電気ケーブルの損失の大きさは、直線になっています。一般の周波数特性の表し方、すなわち、縦軸をゲインとし、dB のリニア目盛りとすると、周波数特性は、図.15 のようになります。なお、図.14 は損失、図.15 はゲインですから、図の上下が、反対です。
◆ 周波数が低く、信号の減衰量の絶対値が小さいところでは、周波数特性も緩くなっています。しかし、周波数が高く、減衰量の絶対値が大きいところは、周波数特性が激しくなっています。
このため、電気ケーブルでは、減衰量の絶対値が大きいところでは、単に損失が大きいだけでなく、信号の歪みも大きくなります(図.16)。図の(a)は、減衰量の絶対値が小さく、したがって波形歪みが小さい条件における、波形です。図の(b)は、減衰量の絶対値が大きく、信号の歪みが大きい条件です。(a)、(b)共に、上側(A)が伝送路への入力、下側(B)が伝送路の出力です。
◆ 伝送路への入力波形は、方形波です。方形波は、多数の周波数が異なる正弦波の集まりです(1.(c1))。方形波の角の部分には、高い周波数成分があります(鋭い角であれば、理論的には、無限大の周波数まで含みます)。したがって、周波数特性が緩い条件のところ(図の(a))でも、出力(B)では、高周波成分の減衰によって、角の部分が丸くなっています。
ケーブルの周波数特性が激しい条件のところ(図の(b))では、高周波成分の減衰によって、単に出力波形の、角が丸くなるだけでなく、方形波自体の振幅が減衰しています。このとき、周波数が高い(幅が狭い)パルス(図の(ロ))の部分の減衰が、周波数が低い部分(イ)よりも、大きくなります。このため、図の出力(B)のように、大きな波形歪が生じます。なお、伝送路を伝わる信号の遅れがありますから、入力(A)の(イ)のところのタイミングの波形が、出力(B)の(b)のところのタイミングの波形に、対応しています。
出力波形(B)の矢印のところでは、出力信号がスレッショルド電圧に達しないため、誤動作を起こします。
◆ 光ファイバケーブルでは、図.13 の制約に引っ掛って損失が急速に増加し始めるまでは、図.14 に示すように、周波数特性がフラットです。図.13 の制約に引っ掛かった周波数(図の(A)よりも高い周波数)で、損失が急速に大きくなります。
周波数特性がフラットな範囲では、出口側の波形は、減衰によって、光の強度は弱くなりますが、波形の歪みは、大きくなりませんません。このように、電気ケーブルと比べて光ファイバが、周波数特性による波形歪みが小さいことが、ノイズに強い要因の 1 つです。
マルチモード光ファイバの、伝送距離と伝送速度の制約は、図.13 の特性に起因しますから、帯域(使用上限の周波数)は、信号周波数と伝送距離との積に依存し、MHz・km で示されます。
ステップインデックス マルチモードファイバで使用する、光の波長帯は各種ありますが、最も一般的なのは 850nm です。たとえば、波長 850nm を使用して、損失 6dB/km、帯域 20MHz・km の製品があります。
◆ グレーデッドインデックス形光ファイバは、マルチモードですから、ステップインデックス形マルチモード光ファイバと、同じ問題が生じます。しかし、ステップインデックス形に比べると、はるかに長距離、高速が可能です。
その理由は 2 つあります。第 1 は、光が図.9 のように進むので、モードの違いによる、光が進む実距離の差が、ステップインデックス形に比べて、小さいことにあります。
第 2 に、光は、屈折率が小さい方が、進む速度が大きくなります。したがって、外側を通る光の方が、高速になります。これで差をさらに縮めます。
◆ 製品は、波長 850nm 帯と、1300nm 帯とがあります。たとえば、波長 850nm で、損失 3dB/km、帯域 200MHz・km、波長 1300nm で、損失 1dB/km、帯域 500MHz・km の製品があります。
◆ シングルモード光ファイバでは、光のモードは、1 つだけですから、上記の問題は、起こりません。より高速、長距離の伝送が可能です。しかし、今度は別の問題で制約が発生します。それは、波長分散 の現象です。
光ファイバは、光の波長によって、ファイバ内を光が進む速度が異なります。このため、図.13に示したのと同様な現象が起こります(図.17)。
◆ マルチモード光ファイバでは、光源に、発光ダイオードを使用しています。発光ダイオードは、通常の光源(たとえば普通の蛍光灯)に比べれば、はるかに波長の帯域幅は狭いのです。しかし、シングルモード光ファイバ用に使用するためには、帯域幅が広すぎます。
発光する波長の帯域幅が、発光ダイオードよりも、もっと狭いレーザー を、使用します。これによって、かなりの範囲に対応できます。しかし、さらに高速/長距離になると、レーザーでも、その帯域幅が問題になります。
シングルモード光ファイバは、光の波長 1.3μm が、多く使われてきました。この波長は、損失が最小ではありません(図.12)。しかし、波長分散が、ほぼゼロになります。損失よりも、波長分散の方が、長距離/高速に対してクリティカルなので、使われているのです。
◆ 損失が最小となる波長 1.55μm で波長分散がゼロになる光ファイバも開発されています。ゼロ分散光ファイバ と呼ばれています。また、普通のシングルモード光ファイバを使用して、発光波長幅がとくに狭い高性能レーザーを使用することによって、波長 1.55μmを利用する方法もあります。
これらのファイバを使用した高速伝送は、現在 10Gbps(ギガ : 109ビット/秒)が主流で、40Gbps も使われ始めています。
◆ さらに大容量の伝送に対応する技術として、波長多重化 (電気の周波数多重化と同じことです)の技術が開発されました。1本の光ファイバの中に、複数の波長が異なる光を通して、多重化する方法です(図.18)。
◆ 波長多重化には、1.55μm 帯が使われています。この波長帯は、最も損失が小さい波長帯です(図.12)。この帯域でも、波長分散がゼロの光ファイバが開発されています。
ただし、波長多重化で、波長が接近した複数の光を通すと、波長分散がゼロであると、非線形光学効果という現象が生じて、かえって伝送容量が低下します。
これを防ぐために、ゼロ分散を若干外した、ゼロ分散シフト光ファイバ が使用されています(図.19)。波長多重化を利用すると、たとえば、1 波長につき 10Gbps を 32 波多重化すれば、320Gbps (ギガ : 109ビット/秒)となります。Tbps (テラ:1012)オーダーのものが、実験段階にあります。
◆ 以上のように、光ファイバ伝送は、高速化、大容量化の歴史です。
◆ 一方、光ファイバ伝送は、電気伝送に比べて、ノイズに強いという、大きな特徴があります。この特徴を生かすなら、伝送速度が遅いところにも、多くの用途があります。
電気が、ノイズに弱い理由は、幾つもあります。その中の 1 つに、電気的に絶縁されていても、静電誘導、電磁誘導、さらには電磁波の形で、その絶縁体を通してノイズが伝わってしまう、ことにあります。
これに対して、光では、遮光 は、容易に、かつ、ほぼ完全に実現することが、できます(図.20)。
[図.20] 遮光は容易である
◆ 光がノイズに強い、もう 1 つの理由があります。それは、絶縁の効果です。絶縁が、大きなコモンモードノイズに対して有効であることは、ノイズ対策の 19. で、説明しました。光ファイバ伝送は、絶縁そのものです(図.21)。
◆ フォトカプラは、代表的な絶縁用の素子ですが、光ファイバ伝送は、絶縁に関しては、フォトカプラと同じです。
光ファイバ伝送が、ノイズに強い理由として、通常、遮光効果が上げられていますが、この絶縁効果は、遮光効果に勝るとも劣らぬ効果があります。
また、13.4.(2)に示した、周波数特性がフラットであることも、ノイズに強いことの、見逃すことができない効果です。
◆ はじめに述べたように、光ファイバ伝送は、特性的には、電気伝送に勝りますが、施工性の点では劣ります。改良が重ねられ、ずいぶん良くなりましたが、それでも電気には追いつきません。
光ファイバの接続は、厳密な寸法合わせが要求されます。図.22 に示す、ずれや反射があると、大きな損失が発生します。
◆ 接続の方法は、融着 とコネクタ接続とがあります。融着は、正確な寸法合わせを行うことが必要で、専用の光ファイバ融着接続器が必要です。
光ファイバ用のコネクタ も、精密な寸法が要求されるので、電気のコネクタよりも、高価であり、施工に技術が必要です。また、接続個所における損失を見込むことが必要です。コネクタの数が多いと、コネクタによる損失は、システム全体の損失の大きな比重を占めます。
接続よりも、さらに大変なのが、分岐 と結合 です。電気のように簡単には行きません。
専用のデバイスが必要です。その一つに、ハーフミラー形 があります(図.23)。
◆ ハーフミラー は、半透明な鏡で、一部の光を透過し残りの光を反射して、光を2方向に分配します。
図において、(2) から入射した光は (1) と (4) に進み、(3) から入射した光も (1) と (4) に進みます。結果として、(2) と (3) の光を結合し、その結合した光を (1) と (4) に分配します。
また、(1) からの光は (2) と (3) に出力し、(2) からの光は (1) と (4) に出力します。
このように、方向性があることから、光方向性結合器 と呼んでいます。
ハーフミラー形は、透過と反射の比率を変えることによって、たとえば 1 : 10 のように、分岐比を変えることができます。これは、図.24 のように、光ファイバで、バスを構成する場合などに利用されます。電気のバスが、簡単であるのに比べると、光のバスは、面倒で、高価です。
◆ 光方向性結合器では、挿入損失と、アイソレーションを考える必要があります。
たとえば図の (1) から入社する光の強度を P1、(2) と (3) から出力する光の強さを P2、P3 とすれば、挿入損失 は、
10 log(P1/(P2 + P3))
です。アイソレーション は、本来出力しないはずの、(4) に漏れ出す光の強度を P4 とすれば、
10 log(P1/P4)
です。
図.25 は、光方向性結合器の双方向伝送への応用例です。
◆ 分岐/結合器の、もう一つのタイプに、分布結合形 があります(図.26)。
◆ 図で、2 本の光ファイバが、1本にまとまったところで光が合流し、それが 2 本の光ファイバに分配されます。
図は、2 つを結合して分岐します。入力側の光ファイバが 1 本であれば単なる分岐、出力側の光ファイバが 1 本のときは単なる結合となります。
分岐/結合には、1 対 n や 、n 対 m の製品があり、光カプラ 、光スプリッタ などと呼ばれています。とくに前記 n の数が多いものは、光スターカプラ とも言います。光スターカプラの例を、図.27 に示します。
◆ 光スターカプラを使用すれば、バスの代わりとしてシステムを簡単に構成することができます(図.28)。
◆ 光スターカプラは、入力光を多数に分配するので、出力が弱くなります。一旦電気に変換してから分配すれば、出力を強くすることができます。これをアクティブ光スターカプラ といいます(図.29)。
◆ このアクティブ方式は、スターカプラに限らず、その他の光アダプタにも、適用されます。アクティブ方式は、出力光が増幅されるなど、幾つかのメリットがあります。ただし、電源断のとき、機能しなく、なりますから、信頼性の点で、注意する必要があります。
◆ 光ファイバ伝送では、O/E 変換器が必要です。プリント基板実装用の製品として、光データリンク があります(図.30)。
◆ 光データリンクは、IC を実装する感覚で実装することができます。
図の回路例は、比較的単純な回路の例です。光ファイバの長さが異なると、光受信モジュールの受光レベル、したがってアンプの出力電圧レベルが変化します。
ATC 回路は、アンプの出力レベルの変化に対応して、適正な受信を行うための回路です。