データ伝送web講座

11. アナログデータの伝送

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11.1. 概   要

◆ アナログ信号は、伝送路を伝わって行くうちに、減衰します。すなわち誤差が発生します。ディジタル信号も、減衰して、電圧が変化しますが、ノイズマージンのおかげで、誤差にはなりません。
しかし、アナログ信号を、直接伝送路に送出して伝送すると、信号電圧の減衰が、もろに、誤差になってしまいます。この信号の減衰は、周波数特性を持っていますから、振幅の変化だけでなく、波形も歪みます。
◆ したがって、近距離で伝送路による減衰が小さくて誤差が無視できる場合を除いて、信号が減衰しても、誤差にならないような、工夫をする必要があります(図.1)。

[図.1] アナログ信号を誤差なく送る

アナログ信号を送る

◆ 変調は、アナログデータを、搬送波に載せて送ります。搬送波の周波数帯域は、元のアナログ信号の周波数帯域よりも狭いので、伝送路上のアナログデータの周波数特性による波形歪みを小さくする効果があります。したがって、長距離伝送の技術として、利用されます。
アナログ信号を A/D 変換器によって、ディジタル信号に変換して、ディジタル信号で伝送すれば、アナログ信号を直接伝送するのに比べて、はるかに大きな波形歪みに耐えることができます。
変調は、アナログデータだけでなく、ディジタルデータに対しても適用されますが、符号化は、ディジタルデータに対する技術です。したがって、A/D 変換器でディジタルに変換したものを、さらに符号化します。適切な符号を選ぶことによって、波形歪みやノイズに対して、より強くすることができます(6.1.)。
◆ 信号に電流を使用すれば、伝送路の抵抗値、したがって伝送路の長さが異なっても、誤差になりません。この理由から、アナログ信号には、電流が使われています。ここでは、電流信号について解説します。電流信号は、アナログだけでなく、ディジタル信号にも、利用されています。これについても、取り上げます。

11.2. 電流信号を使う

11.2.(1) 電流を使う理由

◆ 信号に電流を使う方式を、カレントループ と呼んでいます。カレントループのループは、回路に回の字が入っているのと同じであり、それ以上の意味はありません。
まず、何故信号に電圧でなく、電流を使うのでしょうか(図.2)。

[図.2] 電流を使う理由

電流を使う理由

◆ 図から分かるように、電圧は減衰しますから、伝送距離による誤差が発生します。これに対して、電流は減衰しませんから、距離による誤差はありません。ただし、これは、信号が直流とみなされる範囲です。信号を交流とみなさなければならない範囲では、信号の周波数特性に依存した減衰と波形歪みとがあります。

[注] 信号電圧に周波数特性があることは、すでに示しています。電流については、示しませんでしたが、当然、電流にも周波数特性があります。

◆ 電流はまた、電圧に比べて、ノイズに強い傾向があります。電圧を信号とする系に比べて、電流系の方が、インピーダンスが低いことが多いからです(ノイズ対策1.(3-E-b)参照)。ただし、電圧系でも、終端した系は、インピーダンスが低くなっています。

11.2.(2) アナログ信号用カレントループ

◆ 電流方式のアナログ信号は、プロセス制御などの計装用に多く使われています。電流範囲は、4〜20mA です。4mA の下駄を履いていることが特徴です。
カレントループは、アナログ信号用以前に、ディジタル信号の伝送に広く使われていました。ディジタル信号の伝送では、0〜20mA が使用されていました。20mA は、アナログでも、とくに差し支えは無いので、そのまま受け継がれたのでしょう。
構成を図.3 に、回路を図.4 に示します。

[図.3] アナログ用カレントループの構成

アナログ用カレントループの構成

[図.4] アナログ用カレントループの回路

送信側_ 受信側_

◆ 図の(a)は送信側で、入力電圧を電流に変換して出力します。抵抗 R は、250Ω で、20mA は、5V になります。図の(b)は、受信側で、抵抗 R によって、20mA が5V になります。送/受信の間は、原理的には 0〜20mA であり、4mA の下駄は、送信側の入力で履かせ、受信側の出力で脱がせます。
下駄の効用は、
 (ア) アナログのカレントループは、センサ情報などトランスミッタ(伝送器)に使用されます。4mA の下駄によって、信号をトランスミッタ用の電源に兼用させることができます。これが、最大の理由です。
 (イ) 電源断などの故障と、信号のゼロとの区別がつきます。

11.2.(3) ディジタル信号用カレントループ

◆ ディジタル信号用カレントループは、通常、フォトカプラ絶縁と組み合わせて使います。フォトカプラは、代表的な絶縁の手段です。そして、フォトカプラの動作原理が、電流であることから、必然的に、電流が信号となった訳です。
フォトカプラによる絶縁回路は、5.3.(2) に示しました。両側絶縁と、片側絶縁とがありますが、通常は、片側絶縁で十分です。これらの回路は、定電流回路にはなっていませんから、電流値はばらつきますが、大略一定なので、カレントループに属します。
ディジタルのカレントループには、デージーチェーン方式による多個所用のものがあります(図.5図.6)。

[図.5] 多個所用カレントループの構成

多個所用カレントループの構成

[図.6] 多個所用カレントループの回路

送信回路 受信回路 電源回路

11.3. アナログ信号の多重化

◆ アナログ信号を多重化する場合は、通常、アナログ信号を A/D 変換し、ディジタル信号にへんかんしてから、多重化します。最近は、A/D 変換器が安価ですから、この方式で問題はありません。しかし、以前、A/D 変換器が高価であった時代には、アナログ信号のままで、多重化する方式も使われていました(7.1.(4-B))。
この方式は、
 (ア) アナログデータが、1 点ごとに散在する場合においても、安価なシステムを構成することができる。
 (イ) 1 点ごとの任意間伝送が可能である。
など、多くの特徴を持っています。したがって、現在でも、用途によっては、利用価値があるでしょう。
このシステムも、アナログのカレントループを使用しています。そして、ディジタルデータも、アナログデータと同じやり方で送っています。



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