◆ EMC (電磁環境両立性)は、EMI (電磁妨害)対策(22(1-A))と、イミュニティ(妨害耐性)の、バランスの上に成り立ちます。ここでは、イミュニティ を取り上げます。
EMI 規制は、他を妨害する、加害者に対する、規制です。早くから法的な規制(電気用品取締法)が行われてきました。電気用品取締法の対象被害者は、当初は、ラジオでしたが、その後テレビが追加されました。当時は、被害者としての電子機器は、ほとんど、ラジオとテレビに限られていました。
しかし、エレクトロニクスの発展により、各種各様の電子機器が使われるようになりました。当然、その耐性も様々です。そして、互いに加害者にも、被害者にも、なり合います。
◆ このような状況から、被害者としても、ある程度の強さが、保証される必要があるという、考え方が出てきました。
イミュニティの法的規制は、現状では、EU (ヨーロッパ連合 )で、CEマーキングが実施されている他は、まだあまり進んでいません。しかし、今後は、法的に規制される方向にあります。
◆ イミュニティの規格は、EU の規格、EN がベースとなり、これが国際規格 IEC になり、さらには、その内容がそのまま JIS になっています。すなわち、日本でも、法規制はありませんが、規格には、なっています。表.1 は、IEC と JIS との対応表です。表に記載されていませんが、IEC と同じ番号の、EN 規格があります。
_ | 項目 | IEC 規格 | JIS 規格 | 備考 |
---|---|---|---|---|
基 本 規 格 |
イミュニティ試験の概要 | IEC 61000-4-1 | _ | _ |
静電気放電 | IEC 61000-4-2 | JIS C 1000-4-2 | 人体の帯電 | |
放射無線周波数電磁界 | IEC 61000-4-3 | JIS C 1000-4-3 | 機器からの放射 | |
ファストトランジェントバースト | IEC 61000-4-4 | JIS C 1000-4-4 | リレーの チャタリングなど |
|
サージ | IEC 61000-4-5 | JIS C 1000-4-5 | 雷 | |
無線周波数伝導妨害 | IEC 61000-4-6 | JIS C 1000-4-6 | 機器からの伝導 | |
電源周波数磁界 | IEC 61000-4-8 | JIS C 1000-4-8 | _ | |
パルス磁界 | IEC 61000-4-9 | _ | _ | |
減衰振動磁界 | IEC 61000-4-10 | _ | _ | |
電圧ディップ、短時間停電、電圧変動 | IEC 61000-4-11 | JIS C 1000-4-11 | _ | |
振動波 | IEC 61000-4-12 | _ | _ | |
電圧変動・不平衡および電源周波数変動 | IEC 61000-4-14 | _ | _ | |
フリッカメータの機能および設計仕様 | IEC 61000-4-15 | _ | _ | |
0Hz〜150kHzの伝導性コモンモード妨害 | IEC 61000-4-16 | _ | _ | |
直流電源線上のリプル | IEC 61000-4-17 | _ | _ | |
HEMP放射妨害に対する保護素子の試験法 | IEC 61000-4-23 | _ | _ | |
HEMP伝導妨害に対する保護素子の試験法 | IEC 61000-4-24 | _ | _ | |
装置とシステムに対するHEMP | IEC 61000-4-25 | _ | _ | |
電圧不平衡 | IEC 61000-4-27 | _ | _ | |
電源周波数変動 | IEC 61000-4-28 | _ | _ | |
DC電源入力ポートにおける電圧ディップ・瞬断・電圧変動 | IEC 61000-4-29 | _ | _ | |
共 通 規 格 |
住宅、商業および軽工業環境における共通規格 | IEC 61000-6-1 | JIS C 1000-6-1 | _ |
工業環境における共通規格 | IEC 61000-6-2 | JIS C 1000-6-2 | _ |
◆ 上記、規格の主なものの概要は、下記の通りです。
[IEC 61000-4-2] 静電気放電
人体や、その他の帯電した物体から、機器への、静電気放電です。
機器の使用に際して、人の手が接近する可能性がある、全ての箇所が、評価の対象となります。
導電性の部分に対しては接触放電試験が、非導電性の部分に対しては気中放電試験が、適用されます。接触放電 とは、装置に直接接触しての放電です。気中放電 とは、気中を介しての放電です。
[IEC 61000-4-3] 放射無線周波電磁界
無線送信器からの干渉です。
[IEC 61000-4-4] 電気的ファーストトランジェント
誘導性負荷のスイッチング、リレーのチャタリングなどに伴う、電力線や信号線上の、パルス性の高周波妨害です。
[IEC 61000-4-5] サージ
落雷に伴う、電力線や長距離信号線 (電話線など) 上における、比較的低周波で高エネルギーの妨害です。
[IEC 61000-4-6] 伝導性無線周波妨害
電源やその他のケーブルに対する、無線送信器からの干渉です。
基本的には、無線信号による干渉の評価を目的としています。
この試験は、所定の周波数範囲 (0.15〜80MHz) で掃引される、振幅変調された高周波信号を、結合/減結合ネットワークを用いてケーブルに注入します。
[IEC 61000-4-8] 電源周波数磁界
近傍の大型変圧器や電力ケーブルからの、50〜60Hz の磁界です。
[IEC 61000-4-11] 電圧ディップ、および瞬間停電
電源電圧の、一時的な低下や停電の、影響です。
試験は、機器に供給する電源を、所定の時間、所定の割合で低下させることによって、行なわれます。
通常、短時間の電圧ディップに対しては、機器が動作を継続することが、要求されます。長時間の電圧ディップに対しては、電源電圧が正常な範囲に復帰した後に、機器が正常な動作を、再開することが要求されます。
◆ 試験レベル の概要を、表.2 に示します。
規格 | 現象 ポート |
試験レベル | 動作基準 | |
---|---|---|---|---|
住商業環境 | 工業環境 | |||
IEC 61000-4-2 静電気放電 |
||||
接触 | ±4kV | ±4kV | B | |
気中 | ±8kV | ±8kV | ||
IEC 61000-4-3 放射無線周波電磁界 1) |
筐体 | 3V/m | 10V/m | A |
IEC 61000-4-4 電気的ファースト トランジェント |
AC 電源 | ±1kV | ±2kV | B |
DC 電源 | ±0.5kV | ±2kV | ||
制御/信号 | ±0.5kV | ±1kV | ||
機能接地 | ±0.5kV | ±1kV | ||
IEC 61000-4-5 サージ |
AC 電源(対地) | ±2kV | ±4kV | B |
AC 電源(線間) | ±1kV | ±2kV | ||
DC電源(対地) | ±0.5kV | ±0.5kV | ||
DC電源(線間) | ±0.5kV | ±0.5kV | ||
IEC 61000-4-6 伝導性無線周波妨害 2) |
AC 電源 | ±3V | ±10V | A |
DC 電源 | ±3V | ±10V | ||
制御/信号 | ±3V | ±10V | ||
IEC 61000-4-8 電源周波数磁界 |
筐体 | 3A/m | 30A/m | A |
IEC 61000-4-11 電圧ディップ、瞬時停電 |
AC 電源 | 30%, 0.5周期 | B | |
60%, 5周期 | C | |||
95%, 250周期 | C |
◆ 表.2 のポート は、機器のインターフェースで、図.1 のように定義されています。
◆ 表.2 の動作基準 A、B、C は、下記の動作を保証することです。
A 連続的な妨害に適用し、「機器は試験中も意図した動作を続ける」ことです。意図した動作には、製造者が規定した、許容できる性能の低下を含みます。
B 過渡的な妨害現象に適用し、「機器は試験中は誤動作があっても良いが、試験後は意図した動作を続ける」ことです。意図した動作には、製造者が規定した許容できる性能の低下を含みます。
C 電源の低下現象に適用し、「機能の損失は許容される。だだし、自己回復するか、使用者の操作で復帰する」ことです。
イミュニティの規格は、CISPR の CISPR24 にも規定されています。CISPR の規格は、CIAJ (通信機械工業会 )の、「通信機器におけるイミュニティ試験ガイドライン」に、反映されています。
◆ EUで販売する全ての電機・電子機器は、CE マーク を表示する必要があります。CE マークは、製品の安全性を保障するためのマークです。この、CE マークの一つとして、EMC に関するものがあり、その中には、イミュニティが、含まれています。
CE マーク貼付の手続きを、図.2に示します。
◆ 当然、EMC 以外の、CE マークが適用される項目にも、合格していることが必要です。