自動制御web講座

2. シミュレーション

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2.2. 制御系のシミュレーション


2.2.1 概   要

◆ 2.1 章で、シミュレータの概要を、説明しました。この2.2.章では、1.章に示したシミュレーションの、回路ファイル (*.cir)について、解説します。
ただし、シミュレーションとしての、解説です。制御自体についての解説では、ありません。制御自体についての詳細は、アナログ制御を 3.13.23.3 章で、ディジタル制御については 4.14.2 章で解説します。
この章では、シミュレーションの立場から見て、解説の必要が無いものは、省いてあります。

2.2.1.(1) シミュレーション実行の具体的手順

◆ 回路ファイルの具体的な解説に先立って、シミュレーション実行の、具体的手順について、解説しておきます。
PSPICE の実行によって、実行結果のデータが入っている *.dat ファイルなど、各種のファイルが、*.cir が入っているフォルダに、作られ、または更新されます。
シミュレーションでは、多くの場合、各種のパラメータ値を変えて、ケーススタディを行います。
2.1.3.(3-A)に示したように、ダウンロードした回路ファイルのディレクトリとは別に、プログラム実行用ディレクトリを作成して、そこで実行するのが便利です。
ケーススタディを繰り返したとき、PSPICE の実行によって作られた、各種のファイルは、上書きされます。通常は上書きされても差し支えありませんが、中には保存しておきたいファイルも、あります。
◆ 具体的な手順は、図 2-2-1 のようにするのが便利です。この図は、既に作ってある、1つの .cir ファイルを対象としています。

[図 2-2-1] シミュレーションの手順

シミュレーションの手順

(a) 定数変更など、条件を変えて、次々にケーススタディを行う場合に、その設定条件を残して置きたいときは、*.cir の、ファイル名を変更して、これを保存します。
(b) .cir ファイルを保存して置けば、再実行によって、データを再現することができます。定数等の条件を、.cirファイルで保存してあれば、通常は十分です。演算結果のデータを、.dat ファイルで保存する必要は、ありません。
(c) 幾つかのケーススタディを行って、それらの中から、特定の条件のものだけを、保存したいときは、ファイル名の変更を、図の位置でなく、保存のときに行う方が便利です。
(d) 終了するときに、作成されたデータファイル( .dat )等を残しておいても、差し支えはありません。しかし、とくに .dat ファイルは、サイズが大きいので、大量のゴミがたまります。

2.2.1.(2) 回路ファイルの名称

◆ 第 1 章に示した波形の、回路ファイルは、ディレクトリ cn tの sec22 に入っています( sec11 はありません)。
この講座で示した波形の、回路ファイルは、波形画面と対比し易いように、ファイル名を付けてあります。たとえば、
   「図 1.9 オン/オフ制御 の回路ファイル」 : fg1_9.cir
です。このため、同一回路構成で、定数だけ異なるものが、複数の回路ファイルになってるものも、かなりあります。ただし、同一の回路ファイルを、複数の図番号で、使用しているものもあります。
各回路ファイル先頭の、コメントの最初に、その回路ファイルによって作成された、図番号が入っています。複数の図をサポートする場合は、回路ファイル番号は、最も若い図番号に合わせてあります。
◆ 以下の解説は、必要なものだけに行います。また順不同です。

2.2.2. オンオフ制御(その1) 図 1-9

2.2.2.(1) 回路ファイル

◆ オンオフ制御 の回路ファイル fg1_9.cir を、リスト 2-2-1 に示します。

[リスト 2-2-1] オンオフ制御 fg1_9.cir

オンオフ制御 fg1_9.cir


◆ 一般的な、フィードバック制御の、プログラムは、コントローラと制御対象との組み合わせです。回路ファイルの構成は、このオンオフ制御に限らず、図 2-2-2 のように、統一されています。

[図 2-2-2] 制御用回路ファイルの構成

制御用回路ファイルの構成

◆ このオン/オフ制御も、図の構成になっています。

2.2.2.(2) シミュレーション条件

◆ ステップ応答ですから、.TRANコマンドを使用しています。

2.2.2.(3) 入   力

2.2.2.(3-A) 概   要

◆ 制御系の入力は、目標値変更か、外乱入力かの、どちらかです。使用しない方を、ゼロ入力にして、実行します。
このオンオフ制御では、目標値変更を使用し、外乱入力はゼロにしてあります。外乱入力に変更するときは、ここを変更します。

[注]  コメント「*」で使用しない方の行を消すのが簡単で望ましいのですが、このプログラムでは、エラーになります。少し面倒ですが、ゼロ入力にします。
双方を頻繁に切り換えて使用する場合には、目標値変更と外乱入力とを、各々 2 つ作れば、コメントで切り換えられます。

2.2.2.(3-B) PULSE の書式

◆ PULSE の書式が2.1.5.(2-E-c)に示したものと、異なっています。ステップ入力のときは、ここに示すように、省略表記することができます。表 2-1-1 に「デフォルト値」の欄があります。そこに、デフォルト値が示してある要素は、省略可能です。
省略した要素は、デフォルト値になります。ただし、ある要素から後を、すべて省略することはできますが、途中の要素だけを省くことはできません。
デフォルト値の「TSTOP」は、.TRANコマンドの、「終了時間」のことです。単発パルスのときは、周期 <per> を終了時間に、一致させればよいわけですから、周期 <per> を省略できます。さらに、ステップ応答のときは、パルス幅 <pw> も省略可能です。
デフォルト値の「TSTEP」は、.TRANコマンドの、「プリント・ステップ値」のことです。一般に、プリント・ステップ値は、終了時間に対して、十分に短い時間に取ります。
パルスの立ち上がり/立ち下り時間も、終了時間に対して、十分に短ければ良いので、通常は、デフォルト値を、使用することができます。
逆にいえば、デフォルト「TSTEP」を使用できるような、プリント・ステップ値を使用しておけば良いということです。

[注]  ステップ応答の立ち上がり時間は、理想的にはゼロです。しかし、シミュレーションでは、真にゼロにすることはできません。十分に短い時間として上記の値を取ります。

以上から、ステップ応答では、通常後半の 4 要素を省略できます。さらに、ステップが、時刻ゼロで立ち上がるときは、ディレイ <TD> も、省くことができます。

2.2.2.(4) コントローラ

2.2.2.(4-A) 概   要

◆ オンオフ制御の制御演算を、図で示すと、図 2-2-3 のようになります。

[図 2-2-3] オンオフ制御の演算

オンオフ制御の演算

◆ デバイス S (スイッチ) : オンオフ制御の特性を、デバイス S (スイッチ) によって実現します。
デバイス S はスイッチです。デバイス S は、スイッチングの特性を .MODELコマンドで指定します。デバイス S の標準の書式は、
   <S(名称)><+ノード><-ノード><+制御ノード><-制御ノード><モデル名>
   ( < > は、必須)
です。また、デバイス S のモデル・コマンドは、
   .MODEL<モデル名><VSWITCH> [<パラメータ>=<値>]*
   ( < > は、必須   [ ] は、省略可能   *は、繰り返し可能)
です。
モデル・パラメータを表 2-2-1 に示します。

[表 2-2-1] デバイス S のモデル・パラメータ

記号 内容 単位 デフォルト値
RON ON抵抗 ohm 1.0
ROFF OFF抵抗 ohm 1MEG
VON ON状態になる制御電圧 V 1.0
VOFF OFF状態になる制御電圧 V 0

◆ ここで、 制御電圧 (VS) は、
     VS = ( ( +制御ノード電圧) - ( -制御ノード電圧) )
です。
デバイス S は、この場合には VON < VOFF ですから、スイッチ部の抵抗を RS として、次のように動作します。
     VS ≦ VON のとき RS = RON = 1.0
     VON < VS < VOFF のとき RON < RS < ROFF
     VOFF ≦ VS のとき RS = ROFF = 1MEG
現実のスイッチ(理想特性)では、オンとオフと間は、瞬間的に変化します。シミュレーションでは、真のステップ動作は作ることができません。デバイス S では、スイッチがオンオフするとき、スイッチの抵抗が、VON と VOFF の間で、連続的に変化します。

[注]  スイッチの抵抗は連続的に変化しますが、その変化は、リニアではありません。結果として、スイッチの動作は、VON と VOFF の間をリニアに変化するよりも、はるかにシャープに変化します。

◆ なお、、次のことはシミュレーションがうまく行かない原因になります。

この講座で使用している値は、上記制約には、引っ掛かりません。

2.2.2.(4-B) オンオフ特性を作る

◆ コントローラ部分を、回路図の形で表わすと、図 2-2-4 のようになります。

[図 2-2-4] コントローラを回路図の形で示す

コントローラを回路図の形で示す

◆ スイッチがオン (目標値 > 制御変数) のとき、コントローラ出力は、下限値 VM になります。スイッチがオフ (目標値 < 制御変数) のときは、コントローラ出力は、上限値 VP です。 スイッチの VON と VOFF の差は、理想的にはゼロですが、前記の理由によって、小さすぎない値に取ってあります。しかし、実用上、十分シャープにオン/オフします。

2.2.2.(5) 制御対象

◆ 制御対象の特性の違いは、制御応答に大きく影響します。この講座では、標準の制御対象を定めています(1.6.(2-C))。
制御対象 は、一般にローパス・フィルタまたはそれに類似の特性を持っています。 この講座では、標準の制御対象に、3 次のローパス・フィルタを使用しています(図 2-2-5)。

[図 2-2-5] 3 次標準形の制御対象

3次標準形の制御対象

◆ 図の各ブロックは、( ) 内に示す時定数をもつ 1 次ローパス・フィルタです。
1 章に示した「標準 N の制御対象」、「標準 K の制御対象」は、いずれも、この 3 次標準形を使用しています。標準 N と、標準 K は、そのパラメータ値を、変えたものです。

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