自動制御web講座

3. ア ナ ロ グ 制 御

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3.3. アナログPID制御の最適調整


◆ この 3.3 章では、最適調整を取り上げます。最適調整の手法は多くありますが、この講座では、代表例として、限界感度法を取り上げます。
限界感度法については、多くの紙面を割いています。これは、限界感度法がとくに重要である、ということではありません。制御応答の具体例を、多く紹介することが目的です。

3.3.1. 最適調整とは

◆ 3.2.1.(1)にも説明したように、本来は、制御成績の評価は制御対象によって異なります。したがって、どのような応答波形が最適であるかは、目的用途に依存します。
しかし、とはいっても汎用的な最適応答波形を定義して、それを実現する最適調整の手法によって、制御パラメータの値を得られるなら、それが便利です。
そのパラメータ値が、その目的用途に対して最適ではなくても、それを見出すための目安や、トライアルの出発点、として役立ちます。
PID 動作では、パラメータが 3 つあります。パラメータの数が 3 つ以上になると、やみくもなトライアルは、非効率です。
制御パラメータ値の最適な組み合わせを選ぶことを、パラメータ・チューニング または最適調整 と呼んでいます。

3.3.1.(1) 評価関数

◆ 最適調整では、評価関数を設定し、それを最小 (評価関数によっては最大) にします。まず、評価関数を決めることが必要です。汎用的な評価関数として、一般に広く使用されているのは、2 乗誤差面積 です。
最適調整は、多くの手法が発表されており、それぞれ長所と欠点があります。これらの手法を検討するのに、図 3-3-1 に示す項目が考えられます。

[図 3-3-1] 最適調整法の検討項目

最適調整法の検討項目

3.3.1.(2) 最適解の正確さと簡単さ

◆ 先ず、評価関数が適切かどうか、ということがあります。また、評価関数自体が適切であるとしても、その手法によって、正確な解が得られるとは限りません。誤差、場合によってはエラーを伴います。
数学の問題ではなく、現実への適用ですから、どろどろした面もあります。
最適解の、正確さと簡単さとは、一般には相反する事柄です。したがって、正確さを選ぶか、簡単さを選ぶかという選択になります。
簡単さは、自動化と関連してきます。自動化されていれば、中で行っている処理が複雑でも、人間にとっては簡単です。ただし、自動化のためのコストという要因が入ります。

3.3.1.(3) 適用範囲と適合性

◆ 正確さは、制御対象の特性の違いにどれだけ対応できるかという適用範囲と、その適用範囲内における適合性の二つに分けて考える必要があります。
適合性 とは、その手法を適用して得られた最適解と、その手法における評価関数を最適にする真の最適解との一致の程度をいいます。
制御対象の特性は千差万別です。制御対象の特性がある範囲内にあるときは、十分な適合性が得られても、その範囲を外れると、大きく食い違うことがあります。これが適用範囲 です。

3.3.1.(4) 制御対象への影響

◆ 最適調整は、実機で本物の制御対象を制御しているときに行う場合と、シミュレーション上で行う場合とがあります。実機で行う場合には、最適調整を行うことによって、制御対象に影響を与えたくありません。
しかし現実には、最適調整を行うための何らかの実験が必要なことが多いのです(図 3-3-2)。

[図 3-3-2] 実験が必要

実験が必要

◆ この実験は、制御対象に影響を与えます。制御対象への影響が少ないことは、実用上重要な事柄です。
最適調整自体の問題ではありませんが、シミュレーションを利用して、予めシミュレーション上で最適解を求め、それを参考にして実際の最適調整を行うことは、制御対象への影響を減らす上で効果があります。
ただし、シミュレーションモデルと実際の特性との間には違いがあります。この差が大きいと、シミュレーションの効用が減ります。

3.3.1.(5) 最適調整の自動化

◆ 最適調整を自動化できれば、最も便利です。自動化には、3通りあります(図 3-3-3)。

[図 3-3-3] 最適調整の自動化

最適調整の自動化

(a) は、オフラインの自動化です。手間は掛かりますが、自動でデータ処理された結果に、さらに判断を加え、設定条件を変更することができます。
(b) は、オンライン化で、全ての部分の自動化です。手間は掛かりませんが、利用者の自由度は、ありません。
(c) は、さらに一歩進めたものです。これは、この講座の範囲を超える、より高度な制御方式に属します。
◆ 自動化が容易かどうかも、手法の優劣に関係します。ただし、最近はマイクロプロセッサを使用した自動化が容易です。これを前提にすれば、手法による自動化の難易度を、あまり気にすることなく、自動化することができます。
なお、最適調整の自動化は、全く別の意味も持っています。制御に関する技術がなく、どうやって調整して良いか全く見当がつかない人でも、容易に、かつ(ある程度まで)うまく、コントローラを利用することができるという効果です。

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