データ伝送web講座

9. 通信プロトコル

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9.2. O   S   I

9.2.(1) オープンシステム

◆ 高度の汎用性を持った、プロトコル体系を、オープンシステム といいます。オープンシステムは、インターネットワークを対象としたシステムであり、多数のネットワークで構成されます。高い汎用性を持つということは、当然、複雑ですから、階層化されています。ここで、階層化とは、各階層が、独立性を持つという、条件を含みます(9.1.(4-A))。
◆ 階層化されたプロトコルでは、ある階層のプロトコルを、同種の別のプロトコルに、取り替えることができます。プロトコルを、別のものと取り替えることができることによって、極めて高い汎用性を得ることができます(図.7)。ただし、当然のことですが、送信側/受信側を、同じものに取り替える必要があります。

[図.7] プロトコルを取り替えることができる

プロトコルを取り替えることができる

◆ たとえば、電話回線は、電話網にも、ALSL にも使用できます。これは、電話回線という、下位の階層のプロトコルを、電話網や、ADSL という、異なった上位のプロトコルが利用できるということです。
また、画像データを、FAX で送ることもできますし、Eメールの添付資料としておくることも、できます。これは、画像データを送るのに、下位のプロトコルとして、FAX も、Eメールも、使用できるということです。

◆ オープンシステムには、どういう意味でオープンかという、オープンの種類があります(図.8)。

[図.8] オープンの種類

オープンシステム オープンの種類

◆ 図(a)のシステムにおいて、そのシステムが、オープンであるための条件は、(b)(d)です。その、1 つが成立すれば、その意味でオープンです。たとえば、画像データを、FAX で送ることも、Eメールで送ることもできる、ということは、(b)の、「伝送媒体が異なっても可能」という意味でのオープンシステムです。
◆ そして、(b)(d)を含み、あらゆる面で、オープン性があれば、そのシステムは、真のオープンシステムです。

9.2.(2) OSI の概要

9.2.(2-A) 構   成

◆ OSI は、ISOCCITT とが国際規格の形にまとめた、オープンシステムです。OSI 階層モデル または、OSI 参照モデル の名で呼ばれています。その構成を、図.9 に示します。OSI は、通信の全てを対象とした、オープンシステムですが、解説は LANインターネットに重点を置きます。

[図.9] OSI の階層モデル

OSI の階層モデル

◆ OSI と並ぶ、もう 1 つの代表的な、オープンシステムが、TCP/IP です。TCP/IP は、インターネットや、LAN などに、現在、広く使用されているプロトコルです。TCP/IP は、長い歴史を持ち、使い込まれ、改良された結果として、高い汎用性をもった、オープンシステムです。TCP/IP は、使いやすさの点で、非常に優れたプロトコルです。しかし、理論体系として、眺めたときには、きれいでない点もあります。また、TCP/IP は、通信全体をカバーするプロトコルではなく、LAN や インターネットを対象とする、プロトコルです。
◆ OSI は、この、TCP/IP をベースにして、TCP/IP に取って代わることを目的として、汎用性と対象範囲とを高め、体系を重視して作られた、プロトコルです。OSI(図.9)と TCP/IP とを、大雑把に比較すると、下位の階層(トランスポート層以下)は、大体同じですが、上位の階層(トランスポート層よりも上位)は、OSI の方が、TCP/IP よりも、細分化されています。
◆ OSI(図.9)、TCP/IP どちらの図を見ても、図の中央に、ゲートウェイが、入っています。これは、図.8(d)の、複雑なネットワークに対応する部分です。2 つのネットワークが ゲートウェイで連結さています。2 つというのは、複雑の中での、最も単純なケースです。
ネットワーク層から下位のプロトコルは、図に示すように、相隣る 2 点間、すなわち同一ネットワーク内でのやり取りです。これに対して、トランスポート層以上は、論理的には、最終 2 点間のやり取りです。このように、ネットワーク層以下と、トランスポート層以上とでは、役割が、大きく異なっています。
◆ 物理的な情報の流れは、で、緑色の線で示したように、なります。しかし、論理的には、黒の横線に示したように、同じ階層相互の、やり取りです。
TCP/IP は、実際に使用されながら、発展してきたプロトコルです。これに対して、OSI は、最初から体系として組み立てられたプロトコルです。したがって、OSI は、体系的には、TCP/IP よりも、きれいです。しかし、使い易さの点では、TCP/IP が優れています。
◆ TCP/IP は、インターネットなどで、広く使われていたプロトコルです。OSI を作ったときは、OSI は、TCP/IP を置き換えるプロトコルとして予定されていました。しかし、結果的には、TCP/IP が現在も使い続けられ、OSI は普及しませんでした。

[注] OSI は、制定当時に、広く使われていたプロトコルを、OSI に取り込んでいます。これらのプロトコルは、OSI に関係なく、普及しています。

◆ しかし、OSI は、体系的に、きれいなので、実際に使われているプロトコルを、評価したり、比較したりするのに利用されています。この意味での、存在価値は、十分にあります。

9.2.(2-B) プロトコル実行の流れ

◆ OSI における、プロトコル実行の流れを示します。なお、ここに示す、プロトコル実行の流れそのものは、階層化されたプロトコル全般に、言えることで、OSI に限定されませんが、用語が、OSI になっています。
◆ プロトコルは、小包の包装にたとえて説明してきました。この包装とは、実際には、パケットに、ヘッダを付け加える作業です。ヘッダには、プロトコルを実行するために必要な、制御情報が記載されています。プロトコルの流れを、図.10 に示します。

[図.10] プロトコル実行の流れ

プロトコル実行の流れ

◆ 送信側では、N 層は、上位の N+1 層から、N+1 層のヘッダを付加したデータ <N>SDU を受け取ります。しかし、階層化されていますから、N 層は、N+1 層のヘッダを意識する必要はありません。N 層にとっては、全体が、単なるデータです。
◆ N 層では、では、送信に必要なプロトコルを実行し、受信側に通知する必要がある内容を、ヘッダ <N>PCI として作成し、データ<N>SDU に付け加えます。これが、<N>PDU で、<N-1>層に送るヘッダ付きのデータです。N 層は、この<N>PDU を、N-1 層に送ります。N-1 層では、この<N>PDU を、<N-1>SDU の名前で受け取ります。
◆ 送信側では、上記の手順を、フィジカル層まで、繰り返し、フィジカル層で、受信側に送ります。
受信側では、送信側と逆の手順で、順次上位の層に、送ります。受信側の各層では、ヘッダ<N>PCI の内容を見て、必要な受信側のプロトコルを実行します。そして、ヘッダを取り外して、上位の層に送ります。
◆ 以上のように、情報の流れは、送信側で、上位から下位に順次流れ、受信側では、下位から上位に流れます。しかし、論理的には、各階層は、対応する自分と同じ階層同士のやり取りになります(図.11)

[図.11] 情報の実際の流れと論理的な流れ

情報の実際の流れと論理的な流れ

9.2.(3) OSI の各階層

9.2.(3-A) フィジカル層

◆ フィジカル層 は、文字通り、ハードウェア部分です(図.12)。

[図.12] フィジカル層

フィジカル層

◆ ただし、単なる、電線とか、だけでは無く、ハードウェア上の制御を含みます。たとえば、電話網は、複雑なネットワークを作っていますが、フィジカル層です。

[注] 電話の交換機は、2.4.(1-B) に示したように、コンピュータであり、交換機能はソフトウェアです。しかし、機能としては、ハードウェアと考えることができます。

9.2.(3-B) データリンク層

◆ データリンク層 は、1 つのネットワーク内の、合い隣る 2 点間における、データのやり取りを、間違いなく行うための、制御を行います。たとえば、HDLC は、データリンク層のプロトコルです。データリンク層では HDLC の例からも分かるように、伝送誤り制御のために、通常、トレーラを付けます。
◆ LAN のイーサーネットは、回路部分は、フィジカル層ですが、論理部分はデータリンク層です。ただし、イーサーネットは、OSI が規定している論理を満たしていません。OSI に合致させるために、OSI 固有の部分を、付け加えます。このために、データリンク層を、さらに 2 つの階層(サブレイヤ )に分けています(図.13)。LLC 層 と、MAC 層 です。

[図.13] データリンク層をさらに分ける

データリンク層をさらに分ける

◆ サブレイヤにおける情報の流れは、図.10図.11 と同じです。
TCP/IP では、OSI のような、厳しい体系化の制約は、ありませんから、TCP/IP のデータリンク層は、イーサーネットが直接使われています。

9.2.(3-C) ネットワーク層

◆ データリンク層が、1 つのネットワーク内における、合い隣る 2 点間の制御であるのに対して、ネットワーク層 は、インターネットワークにおける、ネットワーク間の流れの制御です。2.1.図.4 に示した、ゲートウェイの部分の機能です(ゲートウェイは、(4)参照)。
ネットワーク層は、インターネットワークに関する制御を行いますが、ネットワーク層自体は、合い隣る 2 点間の制御です。その連携作業によって、インターネットワーク上の流れを制御します。
◆ ネットワーク層は、最終 2 点間を結ぶ経路を探索し、その経路を辿る制御を行います。複雑な、インターネットワークでは、最終 2 点間を結ぶ経路は、複数存在します。最も効率の良い経路を探索したり、故障時に迂回路を見つけるなどの制御も行います。
◆ ネットワーク層には、コネクションタイプとコネクションレスタイプとがあります。コネクションタイプ とは、接続処理/切断処理を行うタイプです。コネクションレスタイプ は、接続切断処理を行いません(図.14)。

[図.14] コネクションとコネクションレス

コネクションとコネクションレス

◆ コネクションタイプは、接続処理によって、互いに相手を確認してから、実際のやり取りを行います。確実なやり取りですが、接続/切断のためのオーバーヘッドが、かかります。コネクションレスタイプは、高速ですが、相手に届いたという保証がありません。

92.2(3-D) トランスポート層

◆ ネットワーク層を含み、ネットワーク層以下が、合い隣る 2 点間のプロトコルであるのに対して、トランスポート層 および、それ以上の階層は、最終 2 点間のプロトコルです。
ネットワーク層の働きによって、トランスポート層および、それより上位のプロトコルは、インターネットワークが、どんなに複雑であっても、それを意識することなく、最終 2 間の制御を行うことができます。トランスポート層から上位のプロトコルは、ユーザーの種類が異なってもに対応する部分です。トランスポート層は、その中間にあって、扇の要の役割を果たします(図.15)。

[図.15] トランスポート層の位置付け

トランスポート層の位置付け

◆ トランスポート層の仕事は、上位のセッション層から要求され送受信を、各種の誤り制御をおこなって、間違い無く、実行すことです(図.16)。ただし、より高い信頼性を確保するためには、その分プロトコルが重くなります。したがって、クラス、タイプと呼ばれる、段階分けがあり、システムが必要とする、信頼性に応じて使い分けます。

[図.16] トランスポート層の役割

トランスポート層の役割

◆ トランスポート層は、複数のユーザー(プロセス)が共用して使用することができます。これを多重化 と呼んでいます(図.17)。

[図.17] 多重化

多重化

◆ トランスポート層には、この他、セッション層から受け取ったデータブロックを、分割/連結するなどの機能もあります。

9.2.(3-E) セッション層

◆ ユーザーにとっての、ある 1 連のまとまった仕事の単位を、セッション と言います。セッション層 は、セッション単位で伝送を制御します。トランスポート層の制御は、伝送の立場からの制御です。セッション層を含み、セッション層から、上位の階層が、ユーザー単位の仕事になります。
◆ ユーザーデータは、多数のデータブロックに分けて伝送されます。セッション層では、まとまった複数のデータブロックを会話単位 と呼んでいます。
OSI では、トランスポート層以下のプロトコルは、全て、全 2 重でやり取りします。しかし、ユーザーには、全 2 重のユーザーもあれば、半 2 重でしか動作できないユーザーもあります。半 2 重の場合は、会話単位で、交互に伝送を行います(図.18)。

[図.18] 会話単位の交互半 2 重伝送

会話単位の交互半 2 重伝送

◆ セッションは、ユーザーにとっての 1 連の仕事ですから、かなりの時間継続します。これを円滑に行うために、複数の会話単位で、アクティビティ を構成します。アクティビティでは、その途中経過を確認するための、同期点を設けます。何らかの異常で、やり取りが中断したときは、はじめからやり直すのでは無く、直前の同期点まで戻って、その同期点から、やり取りを再開することができます(図.19)。

[図.19] 会話単位、アクティビティ、同期点

会話単位、アクティビティ、同期点

9.2.(3-F) プレゼンテーション層

◆ セッション層以下のプロトコルは、いかにも通信らしい内容です。それに対して、プレゼンテーション層以上は、通常の通信というよりは、さらにユーザー寄りの内容です。プレゼンテーション層 は、データの表現形式に関するプロトコルです。データの表現方法には、いろいろ、あります(図.20)。

[図.20] 各種のデータ表現形式

各種のデータ表現形式

◆ OSI における、プレゼンテーション層の、主な役割は、翻訳です。たとえば、使用する文字コードは、ユーザーによって異なります。これを、プレゼンテーション層で翻訳すれば、異なった、文字コードを使用しているユーザーが、データのやり取りをすることができます。ただし、このコードの翻訳を個別に行うことは、コードの種類が多いと、大変な作業になります。OSI では、伝送の中では、一定のコードを使用し、プレゼンテーション層で、各ユーザーのコードに変換します(図.21)。

[図.21] OSI における翻訳の方法

OSI における翻訳の方法

◆ 図では、構文となっています。本文で、コードと呼んでいたものです。コードの方が分かりやすいので、コードで説明しましたが、図では、さらに一般化して、構文となっています。伝送は、統一された転送構文で行います。プレゼンテーション層で、各ユーザーが使用している、抽象構文に翻訳して、ユーザーとやり取りします。

9.2.(3-G) アプリケーション層

◆ アプリケーション層 は、プロトコルの最上位です。ユーザーアプリケーションは、図.9 においては、ユーザとなっています。それと紛らわしいのですが、このアプリケション層は、ユーザアプリケーションではなく、プロトコルです。アプリケーション層は、ユーザの種類に対応して、多数の種類があり得ます。OSI が制定されている、簡単な、分かり易い例として、仮想端末があります(図.22)。

[図.22] 仮想端末

仮想端末

◆ コンピュータは、離れた場所から、遠隔端末によって利用することができます。ただし、現在では、パソコン全盛ですから、遠隔端末を使用することは、あまりありません。
ユーザーが、実際に使用する端末は、各種あります。しかし、一定の統一された、仮想端末に変換して、利用することによって、プロトコルを、実端末に依存しない、一定のものにすることができます。

9.2.(4) ゲートウェイ

◆ インターネットワークを構成するとき、ゲートウェイ を使用します。このゲートウェイには、各種のものがあります(図.23)

[図.23] ゲートウェイの種類

ゲートウェイの種類

◆  レピータ は、同一ネットワーク内で、距離を延ばしたり、接続台数を増やしたりするために使用します。フィジカル層だけのものです。ブリッジ は、2 つのネットワークを接続します(図.24)。単に橋渡しをするだけです。

[図.24] ブリッジ

ブリッジ

◆ ルータ は、互いにプロトコルの等しくない、2 つ以上のネットワークを接続します(図.25)。図.9 のネットワーク相互を接続しているのは、ルータです。ブロードバンドルータ と呼ばれている製品があります。一方が、ADSL などのブロードバンドで、他方が LAN になっている製品です。

[図.25] ルータ

ルータ ルータa

◆ (狭義の)ゲートウェイ は、全くプロトコルが異なるネットワーク間で、やり取りを行うことができます(図.26)。

[図.26] ゲートウェイ(狭義)

ゲートウェイ(狭義)



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