自動制御web講座

6. モータの制御

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6.3 スイッチング制御とカスケード制御


6.3.1. スイッチング制御

6.3.1.(1) サブサーキット

◆ DCモータの制御では、操作変数は一般にモータに加える電圧が使用されます。
しかし、電圧をアナログ的に変化させることは、損失がが大きく、しかもその損失が熱となり、温度上昇を引起すという、欠点があります。
これを解決するのが、スイッチング制御です(1.4.(3)6.1.2.(2-C))。
まず、スイッチング制御のサブサーキットを用意します。

6.3.1.(1-A) アナログ用サブサーキット
6.3.1.(1-A-a) 基本サブサーキット

◆ まず、スイッチング制御のアナログ/パルス変換のサブサーキットを作ります。
スイッチング制御 は、パルス幅変調 と呼ばれている変調方式の1種です。したがって、サブサーキットの名前は、その頭文字をとって、PWM にしました。
アナログ制御で実際に使用されているパルス幅変調回路と、同じ原理のモデルです(図 6-3-1)。

[図 6-3-1] パルス幅変調のアナログ回路

パルス幅変調のアナログ回路

◆ パルス幅変調回路では、スイッチング周波数の、のこぎり波を作り、これとアナログコントローラの出力値(図の入力波形、破線)とを、コンパレータ(電圧比較器)で比較します。

[注]  コンパレータは、入力電圧の大小関係を比較して、その大小によって、ハイ/ローのディジタル値を出力します。

◆ のこぎり波の周期が、スイッチング制御の周期に、のこぎり波の下端電圧と上端電圧が、コントローラ出力の変化範囲になります。
出力パルスの振幅は、マイナス電源と、プラス電源によって決まります。
サブサーキット PWM では、パルス周期(スイッチング周期) PE をパラメータとして指定します。
サブサーキットの入力電圧範囲と出力のパルス電圧振幅とを等しく取り、下限電圧 VL と上限電圧 VH とを、パラメータとして与えます。
したがって、サブサーキットのゲインは 1 で、サブサーキットを挿入しても、出力電圧には影響ありません。
ただし、この VL と VH は、コントローラ出力のリミッタとして働きます。すなわち、PWM は、リミッタ付です。これは、パルス幅変調の当然の性質です。
サブサーキット PWM の書式は、

   *         出力   入力     パルス幅 範囲高 範囲低
   .SUBCKT  PWM  OUT  IN  PARAMS: PE=1M  VH=1  VL=-1

です。
サブサーキット PWM の動作を 図 6-3-2 に示します。

[図 6-3-2] サブサーキット PWM の動作

サブサーキット PWM の動作




6.3.1.(1-A-b) 2 電源用サブサーキット

◆ モータ制御では、多くの場合、プラス/マイナスの 2 電源、またはこれと同等のブリッジ接続(6.1.3.(2-C))が使用されます。
すなわち、電圧がゼロのときは、パルス無しで、電圧がプラスのときはプラス電源のパルスが、電圧がマイナスのときはマイナス電源のパルスが、加えられます。
これは、サブサーキット PWM を 2 つ使用すれば実現しますが、1 つのサブサーキットにまとめておいた方が便利です。
2 電源用のサブサーキット PWMD を作りました。シミュレーション上は、ブリッジ接続にも使用できます。パラメータは、パルス周期 PE と、電圧範囲(プラス/マイナス) VR です。書式は、

    *               出力  入力     パルス幅 範囲±
    .SUBCKT PWMD  OUT  IN  PARAMS: PE=0.5M  VR=10

です。
◆ 動作を 図 6-3-3 に示します。

[図 6-3-3] 2 電源用パルス幅変調の動作

2 電源用パルス幅変調の動作


6.3.1.(1-A-c) 使用法

◆ スイッチング制御を構成するとき、パルス幅変調のサブサーキット PWM または PWMD は、コントローラ PIDAW と組み合わせて使用します(図 6-3-4)。

[図 6-3-4] スイッチング制御の構成

スイッチング制御の構成

◆ サブサーキット PIAW および、サブサーキット PWM または PWMD は、共に、電圧範囲があります。これを同じ値に設定します。

[注]  このサブサーキット PWM および PWMD は、制約が多く、いろいろな条件でエラーになります。
PIDAW と、上記の構成で生み合わせたときも、エラーになることがあります。UIC を指定することによって、解決する場合があります。まず、これを試みてください。
このエラーは、多くの場合、設定したパラメータ値が特定の値を取ったときに発生します。エラーになったときは、その原因になっているパラメータ値を、前後に僅かな値だけ変えれば、エラーでなくなります。変える値は僅かでよいので、波形は、ほとんど変えずに済みます。
また、エラーにならないで、波形が異常になることがあります。この異常は、すぐ分かるほど波形が大きく異なります。間違うことはありません。

6.3.1.(1-B) ディジタル制御への適用

◆ サブサーキット PWM は、アナログ制御で、実際に使用されているやり方です。しかし、ディジタル制御の場合には、そのままでは適用できません。
アナログ制御では、制御出力は、連続的に変化します。図 6-3-2 からも分かるように、パルスの立下りのときと、立上がりのときとでは、PWMの入力値が異なっています。
これは、常に最新の情報を利用していることを意味します。このためスイッチング制御を行なったことによる遅れは、ありません。
◆ ディジタル制御では、サンプルアンドホールドを行ないます(4.1.3.(3-C-a))。パルス幅変調は、このサンプアンドホールドに同期して、ホールド値に対して行ないます。したがって、サンプルアンドホールドによる、遅れがあります。
この、サンプルアンドホールドを、モデルに組み込むことが必要です。
ディジタル制御は、アナログ制御プラス無駄時間に、等価変換することができます(アナログモデル)。
このモデルでは、ディジタル制御それ自体は、アナログ制御に置き換えています。そして、サンプルアンドホールドの遅れを、等価的に、むだ時間に置き換えたものです。
ディジタルのスイッチング制御においても、図 6-3-5 のように、アナログコントローラ( PIDAW )、ディレイアンドホールド( DAHT )および、パルス変調( PWM または PWMD )を組合わせたモデルを、考えることができます。

[図 6-3-5] ディジタル スイッチング制御

ディジタル スイッチング制御

◆ このモデルには、サンプルアンドホールドが組込まれていますから、アナログモデルで示した、サンプルアンドホールドに対応する無駄時間を、挿入する必要はありません。


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