◆ 前章までで、アナログおよびディジタル制御について、実用上のポイントを含めて、一通りの解説を終わりました。この編(6.1〜6.3 章)では、具体的な応用問題に取り組みます。
具体例は、モータの制御です。モータを例として取り上げていますが、制御の応用について、一般的な解説をしています。
この、6.1 では、先ずモータの種類とその制御について、概要を説明します。この講座で具体的に取り上げるのは、DCモータです。DCモータ自体と、そのシミュレーション・モデルについても、この章で解説します。
制御自体については、6.2、6.3 になります。
◆ シミュレーションによって制御系の解析や設計を行う目的や用途は、色々です。それによって、シミュレーションのやり方も異なります。
これらの中で、最も、まともなやり方は、先ず、制御対象のモデルを、解析的に作成し、そのモデルを制御するやり方です。
ここでは、そのやり方の見本を示します。
このモデルは、十分実用になるモデルです。しかし、簡単なモデルですから、詳細な特性を含むものでは、ありません。実際に、モータを制御したときには、このモデルに含まれていない特性が、効いてくる場合があります。このことを、予めお断りしておきます。
◆ モデルは、その目的用途によって、簡単でも十分役立つ場合もありますし、逆に、詳細な特性の差が、問題になることもあります。
◆ モータ という言葉は、本来は電気式のものに限定されません。しかし日本では、ほとんど電気式モータの意味で使われています。
この講座でもモータは、電気式に限定します。モータの用途は、2 つに大別されます(図 6-1-1)。
◆ モータは、電気エネルギを機械エネルギに変換して、物を動かします。
第 1 の用途は、このエネルギ変換、すなわち動力としての利用を、主目的とする用途です。ほぼ一定速度で回転すればよい用途が多く、この場合には、モータ制御を必要としません。
ただし、精密に一定速度を保つ必要があるときや、速度を可変にするときには、速度のフィードバック制御が必要なときがあります。
もう一つの用途が、制御要素としてのアクチュエータです。機械などを動かす装置を、アクチュエータといいます。制御要素してのアクチュエータは、制御系の中で操作部の役割を担います(1.2.(1))。このアクチュエータの駆動にモータを使用します。
◆ 機械系の制御においては、操作部として、アクチュエータが多く使用されています。
また、プロセス制御においては、操作変数として、流量が多く用いられています。流量は、バルブ の開度によって調節します(図 6-1-2)。
◆ バルブの開閉も機械的動作ですから、アクチュエータ付のバルブをを使用します。これを調節弁 といいます。
リニア・モータを別にすれば、モータ自体は回転動作です。アクチュエータは直線的な運動を必要とする場合が多く、回転運動を直線運動などに変換する変換機構を使用します。
最近では、アクチュエータに、直接直線的動作が得られるリニアモータも、使用されるようになってきました。
アクチュエータは、制御要素として使用しますが、その制御は、シーケンス制御の場合と、フィードバック制御の場合とがあります。
主制御がシーケンス制御であっても、アクチュエータとして動作させること自体に、モータのフィードバック制御が使用されることがあります。
◆ アクチュエータは、高速応答を必要とする場合が多いのですが、モータは、従来応答性が悪く、高速応答用のアクチュエータには不向きでした。
これは、モータ自体の性能の問題もありますが、それ以上に、モータを制御する電気回路に問題があったのです。
この点は、速度制御を行うモータについても同様です。
電気は、機械的なスイッチという簡単な操作手段があります。しかし、オンオフに限定され、しかも低速です。従来モータの操作は、ほとんど、この機械的スイッチに限定されていました。
電気にとっては、アナログ操作(電圧や電流を連続的に変化させること)は、苦手でした。
◆ この理由から、高速応答用のアクチュエータには、アナログ操作が可能で、かつ高速応答の油圧式 や、空気圧式 が多く使用されてきました(図 6-1-3)。
◆ しかし、半導体をパワーの分野に応用した、パワーエレクトロニクス 技術の発展によって、電気においても、連続的なアナログ操作が可能になりました。とくに DC モータをアナログ操作すれば、十分な高速応答が可能です。
ただし、電気のアナログ操作には、大きな損失を伴い、しかもその損失がほとんど熱になり、発熱するという、大きな問題があります。したがって、小形のモータに限定されていました。
しかしこれも、半導体の高速性を利用した、スイッチング制御によって解決されました。最近では小形のアクチュエータだけでなく、大形の各種モータも、フィードバック制御の対象となっています。
◆ 主なモータの種類を図 6-1-4 に示します。
◆ ステッピング・モータ は、ステップ・モータ、パルス・モータ などとも呼ばれています(1.5.(4-B))。
ディジタル入力(パルス数)で駆動され、回転角度が入力パルス数に比例するという大きな特徴があります。
この特徴からパルスモータは、もっぱらアクチュエータとして使用されています。ただし、応答速度は速くありません。
高速応答を必要とするフィードバック制御には不向きで、シーケンス制御に多く使用されています。
ステッピング・モータの駆動には、単なるパルス列ではなく、定められたシーケンスのパルスを必要とします。
◆ コントローラから出力されるパルス列から、このパルス・シーケンスを作り、必要なパワーを出力するための、駆動装置を必要とします(図 6-1-5)。
◆ ステッピング・モータに加えるパルス周波数には、起動時においては「最大自起動周波数」、連続回転時においては「最大連続応答周波数」を超えると、追従できなくなるという制約があります。
シーケンス制御では、最短時間で位置決めを行なう場合が多く、上記制約に引っ掛からないで、これを満たすために、台形制御 が多く使用されています(図 6-1-6)。
◆ 直流モータ 、サーボ・モータ とも呼ばれ、小形の DC モータ は、アクチュエータ用のモータとして使われています。制御用モータとして、最も高性能(高速応答)のモータです。
ただし、価格が高く、ブラシという消耗部品が存在するため、信頼性の問題があります。
DC モータの動作原理を図 6-1-7 に示します。
◆ 磁束 Φg の中で有効長 La の線に、電流 Ia を流すと、力 F が発生します。その力によって、回転子が ωT の速度で回転します。
磁束発生には、永久磁石を使用する方式と、コイルに電流を流す方式とがあります。大形のモータでは、コイルを使用します。アクチュエータ用の小形モータは、永久磁石です。
永久磁石では、磁束 Φg は一定ですから、発生する力 F (トルク)は、モータに加える電流 Ia に比例します。これはアクチュエータにとって、非常に好ましい性質です。
なお、図から分かるように、回転子が回転を続けるためには、電流を流す向きを、切り換えることが必要です。
ブラシを使用することによって、自動的に切り換えを行ないます
◆ アクチュエータとして使用するときは、一般に双方向の回転が必要です。アナログ操作の駆動回路例を図 6-1-8 に示します。
◆ 電源電圧は一定ですが、トランジスタの電圧降下量を変えて、モータに加える電圧を加減して、電流を制御します。このトランジスタに掛かる電圧が損失であり、熱になります。
◆ スイッチング制御の駆動回路例を図 6-1-9 に示します。
◆ 図 6-1-8 では、プラスとマイナスの2電源を使用しています。
しかし電源は 1 つの方が望ましく、この例では、ブリッジ接続を使用することによって、単電源にしています。
Tr1 と Tr2 をオン Tr3 と Tr4 をオフにしたときと、Tr1 と Tr2 をオフ Tr3 と Tr4 をオンにしたときとによって、回転方向が変わります。
スイッチング制御では、スイッチをオンにしている期間の割合(デューティ)が操作変数になります。デューティはアナログ量です。
スイッチングですから、理想的なスイッチであれば、損失はありません。しかし実際には、トランジスタがオンのときの電圧降下があります。
また、スイッチのオンオフには時間が掛かります。オンオフの途中ではトランジスタに電圧が掛かりますから、それに伴なう損失があります。
トランジスタのオン抵抗よりも、この方の損失が支配的です。このため、スイッチング周期に対して、スイッチのオンオフ時間が相対的に大きいと損失が大きくなります。
スイッチング周波数を高くするためには、高速のオンオフ素子が必要です。
図はバイポーラ形のトランジスタです。最近では、より高速な MOS 形のトランジスタ多く使われています。
◆ 同期モータ はブラシレス・サーボ・モータ または AC サーボ・モータ とも呼ばれています。モータ自体の構造は同じですが、同期モータとブラシレス・サーボモータ( AC サーボ・モータ)とでは、動作原理が異なります。
構造は、DC モータとは逆に、固定子がコイル、回転子が永久磁石になっています(図 6-1-10)。
◆ 同期モータは、交流で動作する交流モータです。コイルに 3 相交流を加えると、回転磁界が発生します。回転子の磁石は、この回転磁界について回ります。
電源周波数に同期して回転するので、同期モータの名で呼ばれています。元になる電源の周波数が正確であれば、モータの回転速度も正確です。
◆ ブラシレス・サーボモータは、DC モータと同じ直流モータに属します(図 6-1-11)。
◆ 固定子のコイルには、スイッチが付いています。ちょうど、回転子の磁極の N と S の方向にあるコイルに、直流電流を流します。
回転子が回転すると、スイッチを切り替えて、常に回転子の N と S の方向のコイルだけに電流を流します。
結果的には、DC モータと同じことになります。DC モータでは、ブラシによって、自動的に、電流を流すコイルを切り換えます。これに対してブラシレス・サーボモータでは、回転子の向きをセンサで検出し、それによって、スイッチで切り換えます。
この図から見ると、スイッチの数が多数必要なように思われますが、実際には、図 6-1-10 のブリッジ接続で、トランジスタ数が、4 個から 6 個に増えるだけです(図 6-1-12)。
◆ トランジスタを図 6-1-13 のようにオンオフすることによって、電流の向きを 60°毎に 6 方向に切り換えることができます。
◆ 以上のように、ブラシレス・サーボ・モータは、原理的には、DC モータと同じに働きます。しかし構造的、寸法的な制約が異なりますから、性能的には、全く同じではありません。
◆ インダクションモータ は、交流モータとして、価格が安く、堅牢で、大形のものが容易にできます。汎用モータとして、最も広く使用されています。
構造を図 6-1-14 に示します。同期モータにおいて、回転子の永久磁石を、コイルに置き換えた形になっています。
◆ 固定子のコイルに 3 相交流を加えると、同期モータと同様に、回転磁界が発生します。この磁界によって、回転子のコイルに誘導電流が誘起されます。この回転磁界と、回転子コイルの誘導電流との相互作用によって、回転子が回転します。
固定子の回転磁界の回転速度よりも、回転子のコイルの回転速度の方が遅く、この差に比例してトルクが発生します。
この回転速度の差を、周波数で表わしたものを、すべり周波数 といいます。
負荷の大きさによってモータの回転速度が変化します。しかし、負荷が一定であれば、回転速度は、ほぼ一定です。
◆ モータに加える電圧を変えることによって、回転速度を変えることができます。しかし応答性は良くありません。また、アナログ操作は、損失の面でも好ましくありません。スイッチング制御が望まれます。
交流の場合には、スイッチング制御の一種で、位相制御 と呼ばれている方式が、よく用いられます(図 6-1-15)。
[注] 位相制御御の用途は、モータ制御には限定されません。
◆ 位相制御は、トライアック (図 6-1-16 )と呼ばれる半導体素子によって簡単に実現できます。
◆ トライアックは、ゲートにパルスを加えることによって、オンします。そして主電極間の電圧がゼロになると、オフします。トライアックを使用すれば、ゲートに加えるパルスの位相を制御するだけでスイッチング制御を行なうことができます。
◆ 最近のパワーエレクトロニクスの技術によって、インダクションモータも、本格的に制御に利用されるようになりました。インダクションモータは、電源の周波数を操作変数に選べば、位相制御よりも優れた制御応答が得られます。
インバータ は、直流を交流に変換する装置です。整流器と組み合わせることによって、周波数変換装置として、使用することができます。
インバータは、その機能により、名前(記号)が付けられています。周波数可変のインバータには、電圧は一定の CVVF と、電圧も可変の VVVF とがあります。
インバータ制御を図 6-1-17 に示します。
◆ インバータの出力波形は、正弦波形が必要であることは少なく、通常は、矩形波の交流で十分なことが多いのです。矩形波の交流は、図 6-1-12 の回路によって簡単に作ることができます。
◆ インバータ制御によって、インダクション・モータは、制御用モータに生まれ変わりました。ただし、DC モータのような高速応答は得られません。
DC モータは、瞬間毎のトルクを変えることができます。周波数を操作変数に選んだのではでは、そのようなことはできません。
しかし、インダクションモータであっても、瞬間毎のトルクを制御することは、不可能ではありません。
このためには、瞬間毎に、必要なトルクを発生させるための、やや複雑な計算を行ない、それによって制御を行ないます。
これをベクトル制御 と呼んでいます。DC モータには及びませんが、かなりの制御応答を得ることができます。
最近では、ベクトル制御よりも、さらに高度な制御方式も、使用されています。