自動制御web講座

6. モータの制御

line

6.3 スイッチング制御とカスケード制御


6.3.1. スイッチング制御

6.3.1.(2) スイッチング制御の特性

6.3.1.(2-A) 速度制御
6.3.1.(2-A-a) アナログ制御(基本)

◆ スイッチング制御の応答を、調べて見ます。制御対象は、例のモータ(6.1.5.(1-A-a)表 6-1-2)です。
速度( NS )制御(アナログ制御)における、スイッチング制御の応答を、図 6.3.6 に示します。

[図 6-3-6] スイッチング制御(アナログ)(速度制御)

スイッチング制御(アナログ)(速度制御)

緑 : PE = 0.09ms、赤 : スイッチング無し

◆ スイッチング周期 PE は、電気的時定数の1/10です。制御パラメータは、KP = 1、TI = 30m (スイッチング無しは KP = 1、TI = 10m )です。
スイッチング有は、かなり応答が遅くなっています。しかし、これはスイッチングの影響ではありません。電圧 VT にリミットが掛かっていることの影響です。
スイッチングの電源は、±24V で、スイッチング無しで電源電圧にリミットを掛けたときと同じ値です(6.2.1.(3-B-b))。したがって、そのときの応答と比べると良く一致しています(図 6-3-7)。

[図 6-3-7] リミッタ付スイッチング無と比べる

リミッタ付スイッチング無と比べる

◆ 図 6-3-6では、スイッチングの細かい状況が分からないので、拡大してみます(図 6-3-8)。

[図 6-3-8] スイッチング制御(アナログ)(速度制御)拡大

スイッチング制御(アナログ)(速度制御)拡大

◆ スイッチングによる電流 CU の脈動は、ほとんど無く、良く見れば分かる程度です。速度 NS の脈動は、完全に押さえられています。

6.3.1.(2-A-b) アナログ制御(スイッチング周期を長くする)

◆ つぎに、スイッチング周期を長くしてみます(図 6-3-9)。

[図 6-3-9] スイッチング制御(アナログ)(速度制御)周期長

スイッチング制御(アナログ)(速度制御)周期長

緑から順に PE = 1.28m、0.64m、0.09m

◆ スイッチングによる脈動の状況を詳しく見るために、縦軸を拡大したものも載せてあります。
アナログのスイッチング制御では、スイッチングによる遅れはありません。
PE=0.64ms(赤)は、機械的時定数の1/10です。良く制御されています。脈動は若干ありますが、ステップ幅の 0.6% 程度ですから、無視できる場合が多いと思われます。
PE=1.28ms(緑)は、比例ゲイン KP がスイッチング無しと同じ 1 のときは、振動の減衰が悪くなりますから、KP を 0.7 に落してあります。定常時に脈動が目立ちます(約2.6%)。この辺に、クリティカルな点があるようです。
なお、PE=0.09ms(青)では、スイッチングによる脈動は、全くありません。
スイッチングの状況を、図 6-3-10 に示します。

[図 6-3-10] スイッチングの状況 (PE=0.64ms)

スイッチングの状況 (PE=0.64ms)

◆ 電流 CU の脈動は若干ありますが、機械的時定数によって減衰しますから、速度 NS の脈動は小さくなったわけです(図 6-3-9)。
以上から、スイッチング制御において、速度制御で、良好な制御を行なうためには、スイッチング周期を、機械的時定数よりも大幅(1/10 以下)に小さく取ることが目安です。
なお、スイッチング制御では、脈動の大きさとは別に、騒音の問題があります。
騒音が問題になるときは、パルス周波数を、可聴音周波数よりも高くする(10kHz以上)(スイッチング周期で 0.1ms 以下にする)ことが有効です。

6.3.1.(2-A-c) ディジタル制御(基本)

◆ 次に、ディジタル制御にスイッチング制御を適用した場合を調べて見ましょう。なお、スイッチング無しのディジタル制御自体についても、まだ調べていませんから、ここで比較します。
スイッチング無しのディジタル制御は、図 6-3-5 のディジタル スイッチング制御のモデルから、パルス幅変調を取り除いたモデルを使用します。正式のディジタル制御と、アナログモデルとの中間といった感じのモデルです。
スイッチング周期(したがってサンプリング周期)を変えたときの制御応答を、図 6-3-11 に示します。

[図 6-3-11] ディジタル スイッチング制御(速度制御)

スイッチング制御(ディジタル)(速度制御)

緑から順に PE = 0.64m ス有、無、0.09m ス有、無、アナログ ス無

◆ 制御パラメータは、それぞれに合わせてあります。順に
   PE=0.09ms、KP=0.2、TI=10ms
   PE=0.64ms、KP=0.8、TI=10ms
   アナログ、 KP=1、TI=10ms
です。
スイッチング無 のディジタルと、スイッチング有 のディジタルとが、ほとんど同じ応答です。すなわち、ディジタルでは、スイッチングよりも、サンプルアンドホールドの影響が支配的です。
さらに良く注意して見ると、極めて僅かですが、スイッチング有の方が、応答が速くなっています。
出力の波形を見てみましょう(図 6-3-12図 6-3-13)。

[図 6-3-12] ディジタル スイッチング有の出力

ディジタル スイッチング有の出力


[図 6-3-13] ディジタル スイッチング無の出力

ディジタル スイッチング無の出力

◆ 図 6-3-12 の CNO と図 6-3-13 のCNOT とが、PID 制御演算の出力です。図 6-3-12 の CNOT と図 6-3-13 の VI がホールド出力です。PID 制御演算の出力との間が離れているのは、次回出力形のため、1 周期分遅れいるためです。ここまでは、両方とも同じです。
電圧 VI は、スイッチングと連続との差があり、これに伴って、電流 CU の波形も異なっています。この差を、さらに詳しく見たのが、図 6-3-14 です。

[図 6-3-14] 出力の詳細な比較

出力の詳細な比較

スイッチング 左側 : 有、右側 : 無

◆ スイッチ オンが、先行するために、スイッチング有の方が、電流の位相が進んでいることが分かります。
この効果は、実用上の差になるほどの大きさではありませんが、ちょっと面白い現象なので、説明しました。

6.3.1.(2-A-d) ディジタル制御(スイッチング周期を変える)

◆ 次に、スイッチング周期を、さらに延ばします(図 6-3-15)。

[図 6-3-15] スイッチング周期を延ばす

スイッチング周期を延ばす

緑から順に PE = 1.28m ス有、無、0.64m ス有、無

◆ スイッチング周期を 1.28ms にすると、やはりスイッチングによる脈動がでます。脈動の大きさは、0.64ms も含めて、アナログとほぼ同じです。したがって、脈動の点で限界が生じます。
ただし、スイッチング周期は、ディジタル制御のサンプリング周期と、一致させる必要はありません。たとえば、サンプリング周期の、1/2、1/4 といったように取ることができます。
図 6-3-16 は、サンプリング周期 PE = 1.28ms で、スイッチング周期を短くしたものです。

[図 6-3-16] スイッチング周期を短く取る

スイッチング周期を短く取る

緑から順に サンプリング周期 : 1、1/2、1/4

◆ サンプリング周期が、1/4のときの、出力波形を図 6-3-17 に示します。

[図 6-3-17] スイッチング周期 1/4 のときの出力波形

スイッチング周期 1/4 のときの出力波形

◆ スイッチング制御は、ディジタルで処理すると、マイクロプロセッサの負担が大きくなります。したがって、制御演算はディジタルで行うが、スイッチング制御はハードウェアとする方式が考えられます。
このような場合には、サンプリングと、スイッチングとで、同期が取れていなくても、問題はありません。同期が取れいない場合を、図 6-3-18図 6-3-19 に示します。

[図 6-3-18] 同期が取れていないとき(速度 NS)

同期が取れていないとき

緑 : 同期無、赤 : 同期有


[図 6-3-19] 同期が取れていないとき(出力)

同期が取れていないとき(出力)

◆ 同期が取れていなくても、ほとんど変わりないことが分かります。

6.3.1.(2-B) 位置制御
6.3.1.(2-B-a) アナログ制御

◆ 位置制御は、速度制御よりも応答が遅いので、スイッチング周期を速度制御よりも、遅くすることができます(図 6-3-20)。

[図 6-3-20] スイッチング制御(アナログ)(位置制御)

スイッチング制御(アナログ)(位置制御)

緑より順に PE = 12.8m、6.4m、0.64m、スイッチング無

青と黄は一致

◆ 順に、
   PE=0.64ms、KP=13、TI=30ms
   PE= 6.4ms、KP=13、TI=30ms
   PE=12.8ms、KP=9、 TI=50ms
   スイッチング無し、KP=13、TI=30ms
です。6.4ms は、機械的時定数です。
全般的に、傾向は速度制御と同じです。位置の場合も、PE=12.8ms では、発振には至りませんでしたが、振動が強過ぎるので、比例ゲインKPを押さえてあります。
◆ 電圧 VI、電流 CU および回転速度 NS を、図 6-3-21図 6-3-22 に示します。

[図 6-3-21] スイッチング制御(アナログ)(位置制御)(電圧VI 電流CU 回転速度NS PE=6.4ms)

スイッチング制御(アナログ)(位置制御)(電圧VI 電流CU 回転速度NS PE=0.64ms)


[図 6-3-22] スイッチング制御(アナログ)(位置制御)(電圧等 PE=12.8ms)

スイッチング制御(アナログ)(位置制御)(電圧等 PE=12.8ms)

◆ 速度制御に比べると、スイッチング周期が長いので、電流 CU は、大きく振れています。しかし、回転速度 NS は、かなり平滑化されています。
図は示しませんが、位置制御においても、位置 ND は、スイッチングによる脈動があります。
   PE = 6.4ms のとき : 約0.4%
   PE = 12.8ms のとき : 約1.5%
したがって、スイッチング周期 PE は、モータの機械的時定数以下が、目安になります。
なお、速度制御の場合にも言えることですが、モータの特性は、色々ですから、適用範囲は、個別に検討する必要があります。

6.3.1.(2-B-b) ディジタル制御

◆ 位置制御についても、ディジタルのスイッチング制御は、速度制御と同様な傾向があります(図 6-3-23)。

[図 6-3-23] スイッチング制御(ディジタル)(位置制御)

スイッチング制御(ディジタル)(位置制御)

緑から順に PE = 12.8ms ス有、ス無、 6.4ms ス有、ス無、 0.64ms ス有、アナログ

0.64ms ス無 は、0.64ms ス有 と一致するので省略

◆ 順に、
   PE=0.64ms、KP=9、 TI=200ms
   PE= 6.4ms、KP=3.5、TI=200ms
   PE=12.8ms、KP=2、 TI=200ms
   スイッチング無し、 KP=13、TI=200ms
です。
◆ 同じサンプリング周期のものは、スイッチング有の方が、若干応答が速くなります。
スイッチング周期の限界は、アナログと同様で、機械的時定数と同程度まで使用できます。
電圧等の波形を図 6-3-24図 6-3-25 に示します。

[図 6-3-24] ディジタル制御スイッチング有(位置制御)(電圧VI 等)

ディジタル制御スイッチング有(位置制御)(電圧VI 等)


[図 6-3-25] ディジタル制御スイッチング無(位置制御)(電圧VI 等)

ディジタル制御スイッチング無(位置制御)(電圧VI 等)

◆ 図の見方は、速度制御(6.3.1.(2-A-c))の図 6-3-12図 6-3-13 と同じです。それに、速度 NS が加わっています。
位置制御の方が、サンプリング周期 PE が長いので、とくに、電流 CU が大きく脈動しています。しかし、速度 NS と位置 ND で 2 重にフィルタしたことになりますから、位置 ND の脈動は、速度制御のときの速度 NS と同等です。


目次に戻る   前に戻る   次に進む