◆ 時計でいえば、アナログは指針式、ディジタルは数字表示式です。フィードバック制御は、制御演算をアナログ演算で行うか、ディジタル演算で行うかによって、アナログ制御 とディジタル制御とに分けられます(図 1-16)。
◆ コントローラが、電子回路で構成されている場合には、アナログ演算は、アナログ回路を使用します。アナログ回路では、演算は、通常、電圧によって行われます。電圧はアナログ量です。
ディジタル演算は、一般のディジタル回路が使われることは、ほとんどありません。通常は、マイコンなどによるソフトウェア演算です。
[注] オン/オフ制御の制御出力は2値、すなわちディジタルです。しかし、アナログ制御/ディジタル制御は、制御演算をアナログで行うか、ディジタルで行うかの区別です。制御演算をアナログで行うなら、アナログ制御です。
従来のオン/オフ制御はほとんどがアナログ制御です。マイコンを使って、オン/オフ制御を行うときは、ディジタル制御になります。
◆ 一般には、同じ制御演算式を、アナログでもディジタルでも実行することが可能です。しかし、複雑高度な制御演算をアナログで行うと、複雑高価な回路になってしまいます。ディジタル制御はソフトウェアですから、複雑な演算はお手のものです。高度な制御には、ディジタル制御が適しています。
PID 制御よりも、高度な制御を行うことを、アドバンスト制御といいます。アドバンスト制御には、ディジタル制御が適しています。
ただ、従来は、マイコンの性能による制約から、高い応答速度が要求される、高速サーボ系への適用は、コストの点で、ディジタル制御は、無理とされてきました。しかし、マイコンの性能向上、かつ低価格化によって、この壁も取り払わられています(図 1-17)。
◆ 図において、時とともに実線から破線への方向に移っています。このため、ディジタルの適用範囲が広がっています。
したがって、制御に限らず一般に、従来アナログを使用していたものが、どんどんディジタル化される傾向があります。これは、相対的に、ディジタルの方がアナログよりも価格低下のスピードが大きいからです(図 1-18)。従来アナログが多く使用されていた、PID制御も、最近では、ほとんどが、ディジタル制御です。
◆ 一般に、多くの制御ループは、PID制御でも十分な制御成績が得られます。コンピュータを活用した高度なアドバンスト制御が必要な制御対象は、ごく一部分です。
PID制御は、アナログ制御でもディジタル制御でも、使いやすいことが特徴です。アドバンスト制御は、PID 制御よりも、良い制御成績がえられますが、使いやすさの点で、PID制御に劣ります。PID 制御でも、十分な制御成績が得られるのであれば、使い易いPID制御を利用するのが、ベターです。
この意味で、ディジタル制御においても、数の上ではPID制御が主流です。
◆ アナログ制御系の構成を図 1-19 に示します。制御対象の制御変数は、ディジタルのものもありますが、ほとんどはアナログです。したがって、センサでアナログ量が検出され、アナログ変数としてコントローラに入力されます。
コントローラでは、アナログで制御演算を行います。コントローラからの制御出力 (アナログ) は、操作部で操作変数 (アナログ) に変換されて、制御対象に伝わります。
◆ ディジタル制御では、先に示したようにコントローラはマイコンです。
制御対象は、通常はアナログですから、どこかでアナログ〜ディジタルの変換を行わなければなりません。
ディジタル制御系は、一般的には、図 1-20 に示すように、コントローラに、アナログ〜ディジタル変換器 (A / D 変換器) が内蔵されています。外から見るとアナログ・コントローラの顔をしていて、中身はマイコンで、ディジタル制御している製品もあります。
◆ 一方、図 1-21 のように、コントローラはディジタル信号を入出力し、外部でアナログ-ディジタル変換を行うものも、少なくありません。
◆ 操作部自体が、ディジタル-アナログ変換器を、兼ねるものもあります。このような操作部の、代表例が、ステッピング・モータ (パルス・モータ)です(図 1-22 )。
ステッピング・モータは、パルス数 (ディジタル) を回転角度 (アナログ) に変換する、モータです。
◆ 原理的には、センサ自身の出力が、ディジタルのものも、考えられます。しかし実際には、あまり多くは使われていません。ただし、A/D変換器を内蔵したセンサ製品はあります。
◆ アナログは「連続関数」です。「連続」とは、、つながっていて切れ目がないことです。これに対して、ディジタルは「離散的関数」であり、間に切れ目がある、飛び飛びな値です(図 1-23 )。
◆ アナログ変数を、ディジタルに変換すれば、変換に伴って、図の*で示した以外の、アナログ値は、*の値に、変化してしまいます。値が変化した分が、誤差になります。
連続量を、離散的な量に、変換することを「量子化」と言います。アナログ〜ディジタル変換を、行うことは、量子化することです。したがって、前記の変換誤差を、「量子化誤差」と言います。
アナログ-ディジタル変換の実行や、マイコンによる演算処理の実行には、時間が掛かります。ある時点の値を取り込んで、アナログ〜ディジタル変換し、演算処理を行なった後に、はじめて、次の値を、取り込むことができます。
したがって、アナログ〜ディジタル変換することは、時間的にも量子化していることになります。時間的に量子化することを、通常、「サンプリング」といいます(図 1-24)。
◆ サンプリングが荒いと、サンプリングによって、時間的な途中情報が、失われます(図 1-25)。
◆ 以上のように、ディジタル化によって、変数軸、時間軸、ともに連続なアナログ量は、変数軸、時間軸ともに離散的になります。
フィードバック制御は、偏差情報を利用して制御を行います。アナログをデイジタル化することによって、この偏差情報が減少します。
利用できる情報量が減少するのですから、当然制御結果に影響があるはずです。図 1-26は、アナログ制御と、ディジタル制御との、制御応答を、比較したものです。利用できる情報量が減少したために、ディジタル制御の制御応答が、悪くなっていることが、分かります。
◆ ただし、量子化が十分に細かいときは、失われる情報量が少ないので、ディジタル制御は、アナログ制御と、同等になります。図 1-27 は、図 1-26と同じ条件で、量子化だけを十分細かくしたものです。両方の応答は、一致しています。
◆ 以上から分るように、ディジタル制御は、アナログより制御成績が悪く、高々同等です。
一般に、ディジタル制御はアナログ制御に比べて制御成績が向上すると言われています。上記の事実は、このことと矛盾するように、思われます。しかしこれは、どちらも正しいのです。
アナログ制御とディジタル制御とに、同じ制御演算式を用いるなら、アナログ制御の方が制御成績は良くなります。ディジタル制御は、高々アナログ制御と同等です。
ディジタル制御がアナログ制御よりも良い制御を行うのは、アナログよりも高度な制御演算を実行するからです。先に述べたように、アナログ制御でも、複雑高度な制御演算を行うことは可能です。しかしアナログ演算を高度化すると、コストアップになります。
ディジタル演算は、ほとんどコストアップ無しに、高度な制御演算を、実現することが、できます。