自動制御web講座

4. デ ィ ジ タ ル 制 御

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4.2 ディジタル PID 制御


4.2.4. 最適調整

4.2.4.(1) アナログ限界感度法の利用

◆ ディジタル制御においても、アナログの限界感度法のような、簡便な最適調整 の方法があれば便利です。
まず、ディジタル制御において、限界感度法をそのまま適用することを、考えて見ます。
アナログコントローラの応答は十分に速く、理想通りに動作するものとして、モデル化されています。
ディジタル制御も、コントローラは、理想通りに動くものとして、モデル化されています。しかし、アナログに比べると、コントローラ自身に、サンプアンドホールドと出力の遅れによる遅れが存在します(図 4-2-24)。

[図 4-2-24] アナログコントローラとディジタルコントローラ

アナログコントローラとディジタルコントローラ

◆ ディジタルコントローラは、アナログと同じ PID 制御に、サンプルアンドホールドと出力の遅れによる遅れが加わったものと考えれば、等価的に図の「等価」のように見なすことができます。
この考え方が成り立てば、ディジタルコントローラを使用しても、アナログの限界感度法はそのまま適用できるはずです。以下に、適用の実験結果を示します。

4.2.4.(2) 適用実験

4.2.4.(2-A) 限界感度/周期を求める

◆ 限界感度/周期を求める汎用回路ファイル LMTMTSF.CIR を利用できます。この回路ファイルで、アナログコントローラを、ディジタルコントローラに置き換えれば良いわけです。
P 動作のみで KP = 1 のディジタルコントローラのパルス伝達関数は"1"です。したがってディレイアンドホールドの特性だけになります。
このようにして作った回路ファイル FIG7_20X.CIR を使用して、標準 K の制御対象の限界感度/周期を求めます。結果を表 4-2-4 に示します。

[表 4-2-4] ディジタル制御の限界周期と限界感度

TS TU KU
1 6.49 1.79
250M 3.6 3.6
72M 2.7 6.0
36M 2.48 7.1
7.2M 2.28 8.5
(アナログ) 2.23 8.9

◆ サンプリング周期が短いTS=7.2Mは、アナログコントローラの値とほぼ一致しています。

4.2.4.(2-B) 制御応答
4.2.4.(2-B-a) PI 動作の制御応答

◆ PI 動作(実用式)について、限界感度法を適用したときの制御応答を、図 4-2-25図 4-2-26 に示します。

[図 4-2-25] 限界感度法によるディジタル PI 制御の応答

限界感度法によるディジタル PI 制御の応答

緑より順に アナログ、TS = 72m、36m、7.2m


[図 4-2-26] 限界感度法によるディジタル PI 制御の応答(その2)

限界感度法によるディジタル PI 制御の応答(その2)

緑より順に TS = 1、250m

◆ サンプリング周期が短いときは、振動過多ですが、これはアナログと一致しているからです。限界感度法そのままでは、制御対象が標準 K のときは、アナログのときも、振動過多です(3.3.3.(4-B))。
サンプリング周期が長くなると、振動はゆるくなりますが、積分の効きが不足します。制御対象が 1次遅れ + むだ時間のときは、むだ時間が大きくなると、積分の効きが悪くなります(3.3.3.(2-A))。
ディジタル制御のホールドは、むだ時間と考えられます。この現象も、アナログの限界感度法が、ディジタル制御に適用可能であることを、示しています。
◆ 限界感度法は、この等価むだ時間の大きさによって、適用範囲が限定されます。ディジタル制御では、制御対象ではなく、コントローラによって、適用範囲が狭められます。
この分、アナログよりも、不利と考えられます。

4.2.4.(2-B-b) PID 動作(実用式)の制御応答

◆ PID 動作(実用式)は、図 4-2-27図 4-2-287 の通りです。

[図4-2-27] 限界感度法によるディジタル PID 制御(実用式)の制御応答

限界感度法によるディジタル PID 制御(実用式)の制御応答

緑より順に アナログ、TS = 72m、36m、7.2m


[図4-2-28] 限界感度法によるディジタル PID 制御(実用式)の制御応答(その2)

限界感度法によるディジタル PID 制御(実用式)の制御応答(その2)

緑より順に TS = 1、250m

◆ サンプリング周期が短いときは、アナログと、よく一致しています。サンプリング周期が長くなると振動的になります。これも、アナログで、制御対象が、1 次遅れ + むだ時間のときの現象です。
適合性については、PI 動作と同様に考えることができます。

4.2.4.(2-B-c) PID動作(基本式)の制御応答

◆ PID 動作(基本式)の制御応答を図 4-2-29図 4-2-30 に示します。

[図 4-2-29] 限界感度法によるディジタル PID 制御(基本式)の応答

限界感度法によるディジタル PID 制御(基本式)の応答

緑より順に アナログ、TS = 72m、36m、7.2m


[図 4-2-30] 限界感度法によるディジタル PID 制御(基本式)の応答(その2)

限界感度法によるディジタル PID 制御(基本式)の応答(その2)

緑より順に TS = 1、250m

◆ 実用式とほぼ同じです。ただしTS = 7.2 m は、制御応答はアナログとほぼ一致していますが、TD / TS = 39 です。シミュレーションはノイズフリーですから、きれいに制御してます。実際の使用では、ノイズの問題があります。
限界感度法を実施するとき、何らかの理由に基づいてサンプリング周期を決めて、そのサンプリング周期で実験しています。
しかし、限界感度法によって得られた微分時間 TD が、サンプリング周期 TS の 20 倍以上となったときは、逆にサンプリング周期 TS を変更して TD の 1/20 ににすれば良いわけです。
このように、修正した結果を、図 4-2-31 に示します。

[図 4-2-31] サンプリング周期を修正した結果

サンプリング周期を修正した結果



4.2.4.(2-C) 考   察

◆ 以上、限界感度法の適用に当っては、最後の例(2-B-c)を除いては、サンプリング周期が適切であるものとして、説明してきました。しかし、何時もそうとは限りません。
実用式(フィルタが入った式)では、サンプリング周期が短いことは、制御成績に影響を与えません。基本式(フィルタを含まない式)のときは、(2-B-c)のようにすれば良いわけです。
しかし逆に、実験時のサンプリング周期が、その制御対象に対して、十分に短くなかったときは、実用式、そのサンプリング周期が長過ぎたことに起因して、制御成績が悪くなっています。
その制御対象において要求される制御成績が、それで十分であるなら、一件落着です。
しかし、さらに良い制御成績が要求される場合には、限界感度法の問題ではなく、サンプリング周期選定の問題として考える必要があります。
◆ ディジタル制御においては、適切な、サンプリング周期を決めることは、もう 1 つの、重要な仕事です。これについては、4.2.6. で説明します。


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