自動制御web講座

6. モータの制御

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6.2 速度制御と位置制御


6.2.1. モータの速度制御

6.2.1.(4) 負荷がある場合

6.2.1.(4-A) 減衰が無い負荷
6.2.1.(4-A-a) 比例ゲインが同じとき

◆ モータに負荷を掛けたときを調べてみましょう。まず、減衰が無い慣性モーメントだけの負荷を図 6-2-10図 6-2-12 に示します。コントローラ出力のリミットはありません。

[図 6-2-10] 減衰が無い負荷(リミット無し)(回転速度)

減衰が無い負荷(リミット無し)(回転速度)

緑から順に 負荷 無し、モータの 1 倍、2 倍


[図 6-2-11] 減衰が無い負荷(リミット無し)(電圧)

減衰が無い負荷(リミット無し)(電圧)

緑から順に 負荷 無し、モータの 1 倍、2 倍


[図 6-2-12] 減衰が無い負荷(リミット無し)(電流)

減衰が無い負荷(リミット無し)(電流)

緑から順に 負荷 無し、モータの 1 倍、2 倍

◆ 図から分かるように、負荷が大きいほど応答は遅くなっています。
制御パラメータは、すべてモータ単体と同じです。

6.2.1.(4-A-b) 比例ゲインを変える

◆ ところが、応答を良く見ると、負荷が大きい方が、応答は非振動的です。応答が非振動的であるということは、比例ゲインを大きくすることができるはずです。
そこで、比例ゲインを調整した結果が、図 6-2-13図 6-2-15 です。

[図 6-2-13] 減衰が無い負荷(KP調整)(回転速度)

減衰が無い負荷(KP調整)(回転速度)

緑から順に 負荷 無し(KP = 1)、モータの 1 倍 (KP = 2)、2 倍 (KP = 3)


[図 6-2-14] 減衰が無い負荷(KP調整)(電圧)

減衰が無い負荷(KP調整)(電圧)

緑から順に 負荷 無し(KP = 1)、モータの 1 倍 (KP = 2)、2 倍 (KP = 3)


[図 6-2-15] 減衰が無い負荷(KP調整)(電流)

減衰が無い負荷(KP調整)(電流)

緑から順に 負荷 無し(KP = 1)、モータの 1 倍 (KP = 2)、2 倍 (KP = 3)

◆ 回転速度 NS は、モータの負荷に依存しないで、ほとんど同じ応答になります。
このモータは、6.1.4.(2-B)図 6-1-24 の形で近似されます。負荷を含んでもこの近似は成立します。そして、負荷の増加によって、機械的時定数が増加します。
その結果として、制御対象の周波数応答は、6.1.5.(2-A)図 6-1-30のようになります。
機械的時定数の増加によって、低周波領域の位相遅れは大きくなりますが、高周波領域の位相は、電気的時定数が同じですから、ほとんど同じです。
すなわち、制御応答は、負荷が増加しても、ほとんど変わらないことが分かります。
しかし、高周波領域のゲインは、機械的時定数の違いによって変化します。同じ制御応答を得るためには、負荷が大きいときは、比例ゲイン KP の値を、大きくすることが必要です。
比例ゲイン KP の値が大きくなりますから、制御出力 VI、電流 CU の変化幅は、図 6-2-14図 6-2-15に示すように、大きくなっています。

6.2.1.(4-A-c) リミッタがあるとき

◆ 以上のシミュレーションでは、電圧 VI、したがって電流値 CU が過大です。したがって、実際には、電圧をリミットする必要があります(図 6-2-16図 6-2-18)

[図 6-2-16] リミット付き (KP調整)(回転速度)

リミット付き (KP調整)(回転速度)

緑から順に 負荷 無し(KP = 1)、モータの 1 倍 (KP = 2)、2 倍 (KP = 3)


[図 6-2-17] リミット付き(KP調整)(電圧)

リミット付き(KP調整)(電圧)

緑から順に 負荷 無し(KP = 1)、モータの 1 倍 (KP = 2)、2 倍 (KP = 3)


[図 6-2-18] リミット付き (KP調整)(電流)

リミット付き (KP調整)(電流)

緑から順に 負荷 無し(KP = 1)、モータの 1 倍 (KP = 2)、2 倍 (KP = 3)

◆ リミットした結果として、負荷が大きい方が、応答が遅くなります。
この応答の遅れは、電圧がリミットされることによって、立ち上がりの速度が遅くなることが、原因です。振動の周波数は、あまり変わりません。
以上から、減衰を含まない負荷では、出力がリミットに掛からない範囲では、負荷が大きくても、制御応答は、遅くならないことが、分かります。
しかし、リミットに掛かる場合には、負荷が大きいと応答が遅くなります。

6.2.1.(4-B) 減衰がある負荷
6.2.1.(4-B-a) 減衰の影響

◆ 負荷の慣性モーメントがモータと同じで、減衰がある場合を示します(図 6-2-19図 6-2-20)。

[図 6-2-19] 減衰がある負荷(リミッタ無し)(回転速度 NS、電圧 VI)

減衰がある負荷(リミッタ無し)(回転速度、電圧)

緑から順に DN = 0、0.005、0.02


[図 6-2-20] 減衰がある負荷(リミッタ無し)(電流)

減衰がある負荷(リミッタ無し)(電流)

緑から順に DN = 0、0.005、0.02

◆ 各々について、比例ゲインおよび積分時間を調整してあります。
モータのシミュレーションモデルから予想されるように、減衰定数が大きい方が応答が速くなります(6.1.5.(2-B))。
ところで、減衰定数 DN = 0.02 の電流 CN の定常値を見ると、36.4 A と非常に大きな値です。
電圧 VI の定常値は、18.5 V ですから、電力は 675 W で、このモータの定格 60 W をはるかにオーバーしています(6.1.5.(1-A-a)表 6-1-2)。もし実物なら燃えてしまいます。
減衰定数は、定常状態にも影響します。定常値ですから、リミッタというわけには行きません。使用不可能な条件です。
慣性モーメントが大きい場合には、影響はトランジェントに対してで、定常値には影響しません。だから、リミッタで対応できたのです。

6.2.1.(4-B-b) 実用範囲の応答(リミッタ無し)

◆ 以上から、実用できる範囲でのシミュレーションを、行うことにします(図 6-2-21図 6-2-23)。

[図 6-2-21] 実用できる減衰負荷(リミッタ無し)(回転速度)

実用できる減衰負荷(リミッタ無し)(回転速度)

緑から順に DN = 0、0.002、0.004


[図 6-2-22] 実用できる減衰負荷(リミッタ無し)(電圧)

実用できる減衰負荷(リミッタ無し)(電圧)

緑から順に DN = 0、0.002、0.004


[図 6-2-23] 実用できる減衰負荷(リミッタ無し)(電流)

実用できる減衰負荷(リミッタ無し)(電流)

緑から順に DN = 0、0.002、0.004

◆ この程度の減衰定数の差では、応答速度はあまり違いません。

6.2.1.(4-B-c) 実用範囲の応答(リミッタ有り)

◆ 定常値は押さえましたが、ピーク値は、依然として過大です。リミッタ付きの応答を、図 6-2-24図6-2-26 に示します。

[図 6-2-24] 減衰がある負荷(リミッタ有り)(回転速度)

減衰がある負荷(リミッタ有り)(回転速度)

緑から順に DN = 0、0.002、0.004


[図 6-2-25] 減衰がある負荷(リミッタ有り)(電圧)

減衰がある負荷(リミッタ有り)(電圧)

緑から順に DN = 0、0.002、0.004


[図 6-2-26] 減衰がある負荷(リミッタ有り)(電流)

減衰がある負荷(リミッタ有り)(電流)

緑から順に DN = 0、0.002、0.004

◆ リミッタがあると、逆に減衰が大きい方の応答が遅くなります。とくに、減衰が最も大きい DN = 0.004 の応答が、著しく悪くなっています。
これは、電圧の波形見れば良く分かるように、電圧 VI の定常値がリミットに接近しているために、制御に必要な電圧の振れ幅が取れないからです。
この例に限らず、良い制御を行なうためには、操作変数は、ぎりぎりでは駄目で、制御のための余裕が必要です。


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