データ伝送web講座

7. 多重伝送とネットワーク伝送

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7.4. トラフィック解析

7.4.(2) LAN のトラフィック解析

7.4.(2-A) 規格化平均待ち合わせ時間

◆ 待ち合わせ時間は、通常、規格化平均待ち合わせ時間で評価します。待ち合わせ時間は、ばらつきます。待ち合わせ時間の平均値を、平均待ち合わせ時間 といいます。保留時間も、ばらつきますから、平均保留時間 を考えます。
規格化平均待ち合わせ時間(W/h)は、平均待ち合わせ時間(W)を、平均保留時間(h)で割った値です。
◆ 可変長パケット(M/M/1(∞,0) : 入線から加えられる呼び量を a、平均保留時間を h とすれば、
     W = h a /(1-a)
となります。
◆ 固定長パケット(M/D/1(∞,0) : 平均待ち合わせ時間は、
     W = h a /2 (1 - a)
です。両者を合わせて、図.50 となります。

[図.50] LAN の規格化平均待ち合わせ時間

LAN の規格化平均待ち合わせ時間

◆ 図および式から分かるように、固定長パケットの方が、平均待ち合わせ時間が短くなります。しかし、実際の問題として、固定長パケットが得であるとは限りません。
固定長パケットのパケット長さが長いと、実効のデータが短かいとき、空きを作ることになります。パケット長が短ければ、このような無駄は発生しません。しかし、パケットには、ヘッダー部があります。パケット長が短いと、実効データに対する、ヘッダー部の割合が大きくなります。

7.4.(2-B) 待ち合わせ時間分布

◆ 待ち合わせ許容時間が厳しいときは、平均待ち合わせ時間で評価することはできません。平均値ではなく、最大値で評価することが必要です。しかし、確率分布ですから、理論的な最大値は無限大になってしまいます。
◆ このような時は、待ち合わせ時間分布を使用します。図.51 は可変長パケット、図.52 は固定長パケットです。

[図.51] M/M/1 の待ち合わせ時間分布

M/M/1 の待ち合わせ時間分布

[図.52] M/D/1 の待ち合わせ時間分布

M/D/1 の待ち合わせ時間分布

◆ 信頼度 X % を仮定して、そのときの、回線使用率を求めます。信頼度 X % とは、実際の最大値が、所定の最大値以内に収まる確率です。最大値の要求が厳しいほど、高い信頼度を設定する必要があります。
たとえば、図. 51 で、信頼度を 99% に設定すると、図で、M(t) = 10-2 の横軸を取ります。たとえば、回線使用率 a が 0.3 であれば、これとの交点から、規格化待ち合わせ時間は、5 になります。

7.4.(2-C) 衝突があるシステム

◆ イーサーネットでは、パケットが衝突するシステムがあります。衝突が発生すれば、そのパケットは壊れてしまいます。壊れっ放しでは困りますから、再送を行います。どのようにして再送を行うかは、別途解説します。ここでは、衝突が発生する場合の、トラフィック解析を行います。
◆ 図.53 は、衝突があるシステムの、平均待ち合わせ時間です。

[図.53] 衝突があるシステムの平均待ち合わせ時間

衝突があるシステムの平均待ち合わせ時

◆ パケット長さを固定長(M/D/1)として、パケット長さの影響を調べたものです。回線使用率が 100% 以下で、応答時間が無限大になっています。これが衝突の影響です。
パラメータ k は、パケット長さの逆数を表わす値です。パケット長さが短いときは、衝突による損失が大きいことが分かります。図の最適スケジュールは、衝突が発生しないとき、すなわち理想状態です。
◆ この図から見ると、実行伝送速度が低下するだけで、大きな問題は無いように思えます。しかし、実際には、激しい渋滞現象が発生します。
送信要求が、回線使用率 100% を超える状態を考えます。図.54 は、トークン方式で、衝突が起こらないシステムです。

[図.54] 衝突が発生しないシステム

衝突が発生しないシステム

◆ これに対して、衝突が発生するシムでは、図.55 のようになります。

[図.55] 衝突があるシステム

衝突があるシステム

◆ 衝突が発生すれば、再送します。それが再び衝突すれば、再送を繰り返すことになります。このため、渋滞現象が起こります。再送のやり方などによって大きく変わりますから、この図は定性的なものです。

7.4.(2-D) 優先順位制御

◆ LAN は汎用的なシステムですから、伝送されるデータの種類が色々あります。レスポンスタイムの要求は、データの種類によって大きく異なります。
レスポンスタイムの要求が、著しく異なるデータが混在している場合には、送信要求に優先順位を付け、後から発生した要求であっても、優先順位が高いものは、先に送信することが、望ましいわけです。
◆ 通常、優先順位制御は、ノードに対する待ち行列のところで行います。しかし、ノードから伝送路に送り出すときに優先順位を付けることができれば、さらに効果があります(図.56)。トークン方式では、トークンに優先順位制御用のフラグをつけることによって、実現可能です。

[図.56] 優先順位制御

優先順位制御

◆ レスポンスタイムが厳しい場合には、待ち合わせ時間分布で評価することが合理的です。しかし、優先順位制御の相対的効果を比較するには、平均待ち合わせ時間のほうが、直感的です。規格化平均待ち合わせ時間で評価します。
◆ 優先レベルが、k レベル(i = 1 〜 k で、1 が最優先)あるとき、優先レベル i のパケットの平均待ち合わせ時間を Wi とすれば、
     優先レベル i のパケットの平均待ち合わせ時間
となります。ただし、ai は、優先レベル i に加えられる呼び量(アーラン)です。
◆ 優先レベルが 1 および 2 の 2 レベルで、a1 = a2、η = a1 + a2 の場合を、図.57 に示します。ただし、W0 は、優先順位制御を行わないときの、平均待ち合わせ時間です。

[図.57] 優先順位制御の効果(呼び量が等しいとき)

優先順位制御の効果(呼び量が等しいとき)

◆ 優先順位をつけるときは、優先順位が高いものは、優先順位が低いものよりも、呼び量が大幅に少ないのが普通です。a1 / a2 = 1 / 9 のときを、図.58 に示します。

[図.58] 優先順位制御の効果(呼び量が異なるとき)

優先順位制御の効果(呼び量が異なるとき)


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